従業員を1人でも雇うと、会社と従業員には雇用関係が生まれるので、やらなければいけないこともいくつか出てきます。
今回は、社長さん(と役員)以外に、従業員数を1人雇ったときの手続きと労務管理を紹介します。
法人で社長さん1人のみのとき
本題に入る前に、まずは社長さん1人のときの話から始めましょう
従業員を雇っていなくても何かしなければいけないことがあるのですか?
法人なら社長さん1人でも社会保険に加入しなければなりません
国民健康保険・国民年金から切り替える必要があるんですね
まず、従業員を雇う前の、社長さん1人(と役員)のみの法人の場合です。
法人であれば、社長さんがたった1人だったとしても、健康保険・厚生年金保険に加入しなければなりません。
健康保険・厚生年金保険とは、いわゆるサラリーマンが加入する社会保険です。
納める保険料は、毎月の役員報酬の額と、会社の所在地によります。
厚生年金の保険料率は全国一律ですが、健康保険の保険料率は都道府県によって異なるのです。
また、40歳から64歳の間は、介護保険料も上乗せして納めます。
具体的な保険料額は、以下のリンクからご確認ください。
全国健康保険協会「令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)」(外部リンクが開きます)
手続きは、以下の2つを年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
年間の収入が130万円未満などの要件を満たした家族は、被扶養者にすることができます。
社長さん本人が保険料を支払っていたら、被扶養者は保険料を納める必要はありません。
被扶養者の要件に該当していたら、「健康保険被扶養者(異動)届」を年金事務所に提出してください。
なお、役員の方が健康保険・厚生年金保険に加入するかどうかは、出勤日数や役員報酬の額等によりますので、年金事務所に確認して対応するとよいでしょう。
法人であれば社長さん1人であっても社会保険に加入する。保険料は、役員報酬の額、都道府県、年齢によって異なります
従業員を1人雇ったときの手続き(法人も個人も)
法人なら社長さん1人でも社会保険に加入するんですね
役員報酬をいくらにするかで保険料額も変わります
従業員を雇ったときには何をしなければならないのでしょうか?
法人か個人事業主かにかかわらず、一通り保険に加入させなければなりません
健康保険・厚生年金保険(法人のみ)
まず、健康保険・厚生年金保険は、法人のみ手続きが必要です。
法人であれば、社長さん1人の時点で、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出済みなはずです。
雇った従業員が、週に約30時間以上働くときには、被保険者資格取得届を提出して、社会保険に加入させます。
保険料は、当月分の保険料を翌月分のお給料から控除するのが原則です。
資格取得届の内容に合わせて、年金事務所から会社に納付書が届きます。口座振替や電子納付も可能です。
たとえば、4月分の社会保険料は、5月末日までに納付する必要があり、従業員に5月に支払うお給料から控除することが原則ということになります。
なお、保険料の負担割合は、最高で半額の5割まで従業員に負担させることができます。
つまり、会社が6割〜10割支払っても、法的には問題ありません。
労災保険
労災保険は、雇った従業員が何時間働くかにかかわらず、加入させなければなりません。
労災保険は、働いているときだけでなく、通勤中のケガも対象になりますので、「何時間働いているか」は関係ないのです。
保険率は、事業の内容によって異なります。事業の内容によって、労災の起こりやすさが変わるからです。
厚生労働省「令和3年度の労災保険率について」(外部リンクが開きます)
手続きは、以下の2つを労働基準監督署に提出します。
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
「労働保険」とは、労災保険と、次に説明する雇用保険の総称です。
労働保険は、この先1年間に支払うお給料の見込み総額に、保険率を掛けた額を「概算保険料」として納めます。
そして、1年に1回、実際に支払ったお給料の総額と照らし合わせて、「確定保険料」を申告し、すでに納めた概算保険料と調整します。
なお、労災保険の保険料は、全額会社負担です。
雇用保険
雇う従業員に週20時間以上働いてもらうなら、雇用保険に加入させる必要があります。
納めた雇用保険料は、従業員が失業したときや、教育訓練を受けるとき、会社が助成金を受けるときなどに活用されます。
保険料率は、会社負担と従業員負担に分かれています。毎月支払うお給料額の6/1000が会社負担、3/1000が従業員負担です。
雇用保険料は、社会保険料の翌月控除とは異なり、お給料を支払う都度その賃金額に応じて控除することが原則です。
厚生労働省「雇用保険料率について」(外部リンクが開きます)
手続きは、以下の2つをハローワークに提出します。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
会社は、労災保険とまとめて「労働保険」として、保険料を納めます。
健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険については、以下の記事もご覧ください。
従業員を1人雇ったら、働かせる時間にかかわらず労災保険の手続きをする。週20時間以上なら雇用保険、週に約30時間以上なら健康保険・厚生年金保険に加入させましょう
従業員を1人雇ったときの労務管理(法人も個人も)
従業員を雇うといろいろ手続きしないといけないんですね
手続きをきちんとしていると従業員から信頼も得られると思います
保険の手続きをしておけばとりあえずOKでしょうか?
他にもいくつか気をつけた方がいいことを紹介します
求人を載せるとき
もし求人情報を何かの媒体に載せるのなら、載せる内容を明確にしておきましょう。
雇った後のトラブル対応の方が大変なので、やはり、採用前にどれだけギャップを小さくできるかが重要だと思います。
選考段階では、以下の事項を明示しなければなりません。(職業安定法第5条の3、職業安定法施行規則第4条の2第3項)
- 業務内容
- 契約期間
- 試用期間
- 就業場所
- 始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働の長さ、休日
- 賃金額
- 社会保険・労働保険の加入状況
- 会社名
- 雇用形態
- 受動喫煙防止措置の状況
労働契約書を交わす
採用することを決定したら、労働契約書を交わす、つまり、労働条件を書面で明示することが必要です。
労働契約を開始するときに明示する事項は、次の14個です。そのうち1〜6は、5の昇給に関する事項を除き、書面で提示しなければなりません。(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条)
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
名称は「労働契約書」「雇用契約書」「労働条件通知書」など何でも構いません。
厚生労働省が労働条件通知書のひな型を公開しているので、こちらもご参照ください。
厚生労働省「労働条件通知書(一般労働者用;常用、有期雇用型)」(外部リンクが開きます)
労働契約の開始時にあたっては、以下の記事でも解説していますので、よろしければご覧ください。
適用事業報告と36(サブロク)協定
従業員を雇うことが決まったら、労働基準監督署に適用事業報告を提出します。(労働基準法第104条の2、労働基準法施行規則第57条)
これは、従業員に何時間働いてもらうかに関わりありません。
様式は、以下のページでダウンロードできます。
厚生労働省「労働基準法関係主要様式」(外部リンクが開きます)
また、従業員に、原則週40時間・1日8時間を超えて働かせるときには、従業員と「36(サブロク)協定」を締結して労働基準監督署に届け出ることも必要です。(労働基準法第36条)
何のために、何時間、何人残業させるかなどを記載して締結します。
36協定を締結していなければ、原則、週40時間・1日8時間を超えて働かせることや、週に1日も休みを取らせず働かせることはできません。
様式は、適用事業報告と同じページからダウンロードできます(「時間外労働・休日労働に関する協定届」という名称です)。
厚生労働省「労働基準法関係主要様式」(外部リンクが開きます)
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿
従業員に実際に働いてもらうようになったら、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3点セットを用意します。
まず、労働者名簿には以下の事項を記載します。日雇い以外の従業員の分を作成する必要があります。(労働基準法第107条、労働基準法施行規則第53条)
- 氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類(従業員数30人未満なら不要)
- 雇入の年月日
- 退職の年月日とその事由
- 死亡の年月日とその原因
次に、賃金台帳です。日雇いの方も含めて、作成します。記入する事項は、以下の通りです。(労働基準法第108条、労働基準法施行規則第54条)
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間(日雇いの方は不要)
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数
- 基本給、手当など賃金の種類ごとにその金額
- 労使協定により賃金の一部を控除した場合はその金額
そして、出勤簿です。出勤簿は、残業代の支払いのためにも必要ですが、健康管理においても重要です。
従業員の健康に何か問題が起こり、過去にどのくらい働いていたのかが分からないと、会社にとっては非常に不利になってしまいます。
出勤簿に記載する内容は、以下の通りです。(労働基準法第109条)
- 氏名
- 出勤日
- 始業・終業時刻
- 休憩時間
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿のいずれも、記載すべき内容が載っていれば、フォーマットは何でも構いません。
雇い入れ時と定期の健康診断
最後に、週に約30時間以上働かせるような従業員を雇うときには、入社前後に健康診断を受診させることが必要です。
雇用形態に関わらず、健康保険・厚生年金保険に加入するような従業員に健康診断を受けさせると覚えておくとよいと思います。
従業員の健康管理は、労務管理において近年重要視されていますので、少なくとも、出勤簿をつけることと健康診断を受診させることは必須です。
入社前後とは、入社前3ヶ月〜1ヶ月程度を指します。
また、入社後の定期健康診断は、従業員の人数が少ないときには、時期は個別に管理されてもよいと思います。
雇い入れ時と定期の健康診断については、以下の記事で解説していますので、よろしければご覧ください。
従業員を雇ったら、労働契約書等で労働条件を明示する。適用事業報告と36協定は労働基準監督署に届け出る。労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3点セットと健康診断が大切です
従業員を1人雇用したときの手続きまとめ
- 従業員を1人雇ったら、社会保険・労働保険の手続きを一通り行う。働く時間にかかわらず労災保険は必須で、週20時間以上なら雇用保険、週に約30時間以上働くなら健康保険・厚生年金保険に加入させる。
- 労働契約締結時には、労働契約書等で労働条件を明示する。適用事業報告と、原則週40時間・1日8時間を超えて働かせるなら36協定を労働基準監督署に届け出る。
- 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3点セットは日々の労務管理に必要。健康診断を受診させることは従業員の健康管理に必須。