「特定社会保険労務士」や「特定社労士」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
社会保険労務士でも、関わったことのある方は、あまり多くはないと思います。
その上、
「特定」とは・・・?
と思われることでしょう。
今回は、「特定社会保険労務士」と「社会保険労務士」は、何が違うのかを紹介します。

第15回特定社労士試験を受験しましたが、ギリギリで合格できました!
第15回特定社労士試験科目 | 点数 | 合格基準 |
---|---|---|
あっせん事例(70点満点) | 46 | 足切りの点数設定なし |
倫理規定に関する事例(30点満点) | 13 | 10点以上 |
総得点(100点満点) | 59 | 55点以上 |
社会保険労務士ができる仕事

友人には、「社会保険労務士って何?」と聞かれることが多いです。
過去に「社労士」といってすぐに通じたのは、人事部や総務部の方、社長さんや個人事業主の方でしょうか。
会社は顧問の社労士に何を依頼しているかというと、以下のようなことです。
- 社会保険・労働保険の手続き
- 給与計算
- 助成金申請
- 年金相談
- 就業規則の作成
- 労務相談
これらが、社会保険労務士の独占業務です。
これらの業務は、社労士でない方が有償で行うことはできませんが、無償であればできます。
この点は、税理士と異なります。
税理士の業務は、税理士でない方は無償であっても行うことはできないのです。
社会保険労務士試験の試験科目

労働法や社会保険の専門家である社会保険労務士の試験には、以下のような科目があります。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労災保険法
- 雇用保険法
- 健康保険法
- 国民年金法
- 厚生年金保険法
- 一般常識
これらのうち、根幹となる科目は、労働基準法です。
労働基準法は、会社と従業員の間の契約関係に関するルールを定めています。
一方で、民法は、私人(市民)間の契約に関するルールを定めた法律です。
雇用関係を考える上で、労働基準法に決まりがなければ、民法に立ち返って考えます。
つまり、「労働基準法は民法の特別法、民法は労働基準法の一般法」という位置付けです。
しかし、労働基準法のルールの基となっている民法は、社労士試験の科目にはないのです。
特定社労士ができる仕事

「特定」とついた社労士には、何ができるのでしょうか。
会社と従業員との間でトラブルになった際に、話し合いで解決しなければ、公的な制度において第三者を介入させて解決を目指すことができます。
裁判まで起こさなくても、その手前で解決することができるのです。
この、裁判の手前(「裁判外」といいます)での解決制度において当事者の代理をできるのが、「特定社会保険労務士」です。
具体的には、退職・解雇、残業代、ハラスメントに関するトラブルなどです。
たとえば、「会社に退職しろと言われた、未払い残業代も含めて〇〇円支払え」とか、「ハラスメント相談をしたが会社がきちんと対応してくれなかった、慰謝料として〇〇円支払え」といったようなトラブルです。
会社と従業員、双方が根拠を基に主張をして、いくらなら支払えるのかという話し合いになります。
社労士試験の科目の知識はもちろんですが、退職の意思表示や手続きの瑕疵があるか、慰謝料としてどの程度が相場かなどの知識が必要になります。
特定社労士の研修と試験
63.5時間の研修を受ける!

特定社労士の試験を受けるには、まず、研修に参加しなければなりません。
毎年、9月〜11月にかけて行われます。
研修の構成は、以下のようになっています。
- 講義(30.5時間):内容は、憲法、民法、労働契約法、その他労働法など
- グループ研修(18時間):特定社労士をリーダーに受験生同士で議論などをする
- ゼミナール(15時間):弁護士を講師に、グループ研修で作成した書面等を基に質疑応答する
たいていの方が働きながら、土日にこの研修を受けていると思います。
当然ですが遅刻・早退・欠席は原則認められていません。その年の受験資格を失ってしまいます。
試験そのものよりも、土日に受けるこの研修が大変でした・・・。
私が一番しんどかったのは、30.5時間の講義です。
講義動画を見る形式で、受け身なので、眠たくなりますし、その時期体調を崩していたこともあって、必死でした。
グループ研修やゼミナールは、自分で書面の内容を考えたり、質疑応答の時間があるため、とても勉強になりました。
記述式の試験は2時間!

研修を無事終えたら、いよいよ試験です。
記述式で、裁判外の話し合いにおける法的な問題点を指摘したり、倫理的に特定社労士として依頼を受けてよいかなどを検討したりします。
ちなみに、ボールペンでマス目に書いていきます。修正したい場合は二重線を引き、マス目の空いているスペースに書きます。
問題を読んで構成を考える時間と、答案用紙に書いていく時間の配分が大切だと思いました。
社労士試験の合格率が6〜7%である一方、特定社労士試験の合格率は60%くらいなので、緊張感はまるで違いますが、それでも費用や時間をかけて受験しているため、緊張感がありました。
そして、実際に裁判外で当事者の代理人として話し合いをするには、出来事の合法・違法性を主張することよりも、何が起きたかを整理して、当事者が何を求めているのかを正しく理解することが大切だと感じています。
まとめ
- 社会保険労務士は、労働法や社会保険の専門家として、書面の作成や相談業務を行う。
- 特定社労士は、会社と従業員とのトラブルで代理人となり、裁判外で解決することができる。
- 解決のための話し合いの場では、事実や主張を正しく理解して整理することが大切。