社労士のシモデ(@sr_shmd)です。
2020年6月1日に「パワハラ防止法」が始まりました。

法律のことはよく分からないし難しそう・・・
と思った方も、法律の大枠を捉えていればパワハラやセクハラから身を守ることができます。
パワハラから身を守るため、パワハラをしないためにも、パワハラ防止法などの「ハラスメント防止法」の仕組みを知っておくことが大切です。
この記事ではハラスメント防止法の3つの重要ポイントをまとめています。

この記事は次のような人にオススメです!
- ハラスメント被害に困っている人
- ハラスメントから身を守る手段を知りたい人
- ハラスメントをしないように気をつけたい人
ハラスメント防止法の3つの重要ポイント
この記事では、「パワハラ(パワーハラスメント)」「セクハラ(セクシュアルハラスメント)」「マタハラ(マタニティハラスメント)」などのハラスメントを防止するための法律を「ハラスメント防止法」と呼ぶことにします。
ハラスメント防止法の仕組みを理解するための重要ポイントは、以下の3つです。
- ハラスメントに該当するかには明確な基準がない
- ハラスメント防止法は直接被害者を守るものではない
- 揉めたら最後は金銭解決になる

ちなみにパワハラ・セクハラ・マタハラを防止する法律の名前はそれぞれ次の通りです。
- パワハラ:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(「労働施策総合推進法」)
- セクハラ:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(「男女雇用機会均等法」)
- マタハラ:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律と育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(「男女雇用機会均等法」と「育児介護休業法」)
以下にハラスメント防止法の3つの重要ポイントを詳しく説明していきます。
ハラスメントに該当するかには明確な基準がない
ハラスメント防止法には、ある言動がハラスメントに該当するかどうかの明確な基準は定められていません。
この点は労働基準法と異なります。
労働基準法の特徴:基準が明確・刑事罰がある
例えば社長が

うちの会社では残業代は出ないぞ!!
と主張したとしても、労働基準監督署に調査されれば

労働時間が週40時間超えても残業代を支払わないのは法違反なので支払ってください
と言われてしまいます。
労働基準監督署からの是正勧告がなされても

残業代は支払わない!法違反ではない!!
と主張すれば

法違反を是正しないのは悪質なので罰金を支払ってください、支払わなければ送検します
などと言われてしまいます。
このように、「週40時間超には残業代を支払う」などと基準がはっきりしていて、刑事罰をもって会社にルールを守らせることが労働基準法の特徴です。
ハラスメント防止法の特徴:基準が明確でない・刑事罰がない
一方、ハラスメント防止法は「ある言動がハラスメントに該当するか否か」の明確な基準はありません。
例えば

先輩に蹴られました!パワハラです!慰謝料を支払ってください!
と主張したとしても

たまたま足が当たっただけなのでパワハラとは言えません、慰謝料を支払う必要もありません
と判断される可能性もあるわけです。
なぜなら、ある言動がハラスメントに該当するかどうかは裁判をしても意見が分かれることがあり、法律によって明確な線引きをすることはできないからです。
そのため、パワハラの定義は次のような分かりにくいものになっています。
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること
労働施策総合推進法第30条の2より
パワハラが法律に定義づけられたこと自体は大きな進歩ですが、「蹴られたこと」「怒鳴られたこと」が絶対にパワハラに該当すると線引きされているわけではないということです。
明確に線引きできない以上、労働基準法とは異なり、労働者がハラスメントされたら会社が刑事罰を科せられると決めることもできません。
ハラスメント防止法は直接被害者を守るものではない
ハラスメント防止法は刑事罰をもって会社にルールを守らせるものではないなら、どのようにハラスメントを防止するのでしょうか。
ハラスメント防止法には「上司は部下にハラスメントをしてはいけません」とは定められていません。
つまり、ハラスメント防止法が直接被害者を守ってくれるわけではないのです。
ハラスメント防止法では、「ハラスメントが起こらない職場環境のためにハラスメント防止措置を講じてください」という、国から会社に対するお願いごとが定められているだけです。
具体的には、以下3つの防止措置です。
- ハラスメントを行ってはならないという会社の方針を明らかにして、それを周知・啓発する
- ハラスメントに関する相談や苦情に適切に対応するための体制を整える
- ハラスメント問題が発生したら、速やかに適切に対応する
よくハラスメント被害者から

ハラスメントされました、労働基準監督署に相談すればいいですか?
と聞かれますが、ハラスメント問題は労働基準監督署ではなく、その上部組織である「都道府県労働局」が対応します。
労働基準監督署は、労働基準法違反の有無を判断して指導するところであって、ハラスメントがあるか否か、会社が防止措置を行っているかどうかを判断するところではありません。
都道府県労働局は、会社がハラスメント防止措置を行っていない場合、現状に関して報告を求めたり助言・指導・勧告を行ったりします。会社が誠実に対応しなければ、悪質だと判断されて企業名公表されます。
労働基準法のように刑事罰ではなく、企業名公表という行政罰によってルールを守らせようとするのがハラスメント防止法です。
会社でハラスメントが起きることのリスクは、罰金や送検ではなく企業名公表により評判が下がることなのです。
揉めたら最後は金銭解決になる
ハラスメントの加害者やハラスメントが起きるような環境を放置した会社を誰も捕まえてくれないのなら、ハラスメントの被害にあった場合はどうすればいいのでしょうか?
ハラスメント相談は、大きく以下の3つの段階に分けられます。
まずは社内で相談相手を見つけよう
まず、裁判まではいかなくても、裁判以外で第三者が入って解決を目指す方法があります。
例えば、ハラスメント防止法に基づく、都道府県労働局による「調停」という制度があります。
調停委員が調停案を作成し、労使双方がそれを受け入れるかどうかを決めます。
調停は裁判ではありませんので、法律に基づいて判断が下されるというよりは、いくらで和解するかという話し合いになります。
ただし、これは、国から会社へのお願い事を取り決めているハラスメント防止法に基づく制度ですので、ハラスメントの加害者を相手にすることはできません。
裁判では民法が適用される
ハラスメントの加害者に対しても訴えたい場合には、裁判をすることになります。
自分の受けた言動が、慰謝料を支払ってもらえるほどのレベルかどうかは、パワハラ防止法や、もちろん労働基準法にも定めはありませんので、民法に立ち返って判断されることになります。
加害者の言動が不法行為である(民法第709条)、会社が自社の労働者が加害者になったことに責任がある(民法第715条)、あるいは、会社が労働者が健康で安全に働くことができる環境を整えていなかったことに責任がある(民法第415条)と、加害者や会社に対し、慰謝料や逸失利益(被害者が働けなくなった期間の賃金に相当する金額)を支払えという判断が下されます。
いざというときのために
ハラスメントの被害を受けたら
調停や裁判を行うにしても、先輩、上司や会社に相談するにしても、誰かに説明する過程は欠かせませんので、いつどこでどんなことをされたのか、記録しておくことはなんとかやってみましょう。
このメモがあれば、いざというときには裁判という最終手段も取れますし、客観的に状況を判断する材料にもなりますので、さっさと会社に見切りをつけるのか、その他の被害者を生まないためにも、会社や公の機関に相談するという行動を起こすのか決めるきっかけにもなります。
私も「パワハラだ!」と感じたときに、日付と何があったかの経緯を記録したことがありますが、何かのときカードとしてきれますし、そのメモがお守りのような役割もはたしてくれていると感じました。
被害の内容によっては、他人に話しにくいこともあると思いますが、どこでどんなことをされたのか説明できなければ、愚痴で終わってしまい、誰も助けることができません。
走り書きでも、記号でもいいので、「状況を変えたい」と思ったときに第三者に説明できる状態にしておくことは大切です。
加害者にならないために
ハラスメント防止法で直接罰せられることはなくても、裁判で争いになってしまったら、数百万、高ければ数千万の慰謝料を命じられることもあります。
そこまでのケースはまれでも、周囲からの信頼を失ったり、会社でハラスメントと認定されれば、懲戒処分を受けたり、異動させられたり、退職せざるを得なくなる可能性はあります。
ハラスメント的な言動は、自分の思い込みや自分流の関わり方から生まれます。
まずは、どんな言動がパワハラやセクハラに該当しうるのか、ざっくりと目を通しておきましょう。
そして、男女の違いや人間の特性を知って客観視することで、自分がなぜそのような言動をとってしまうのか、どのように気をつけて対策していけばよいかを一緒に考えていきましょう。
まとめ
- ハラスメント防止法に、「ハラスメントとは何か」が定義されているが、ある言動がこの定義に当てはまるかどうか白黒つけるのは難しい。
- ハラスメント防止法は、会社に防止措置を義務付け、違反したら行政罰により社会的評価を下げるという内容。
- ハラスメント事案が起きたとしても、ハラスメント防止法により会社や加害者が直接罰せられることはない。
- 裁判では、ハラスメント防止法ではなく、民法が適用される。
- 被害を受けたらメモを取っておくこと、加害者にならないためには思い込みや自分流を見直すことが大切。