とある男性に、
女性も嫌だったら「やめてください!」って拒否するんじゃないの。拒否していないってことは、少しは合意する気持ちがあったんじゃないの。大人なんだから後から文句を言うのはなしでしょ。
と言われたことがあります。
それを聞いて私は、
嫌だって思っても、苦笑いしてフェードアウトするのが精一杯で、「嫌です」とか「やめてください」と言えたことはないなあ。私がおかしいのだろうか。
と思いました。
他にも同じような女性がいるのではないかと思い、調べた結果をお伝えします。
私は、NOと言えなかったのは自分が悪かったのではないことが分かり、これ以上自分を責めずに済んで非常にほっとしました。
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「迎合メール」を知っていますか?
合意ではなく機嫌をとっているだけ

性暴力やセクハラに関する裁判では、メールのやり取りや会話の録音が証拠とされることがあります。
そして、男性は「合意だった」と主張することがしばしばあるようです。
そこでメールや録音の内容を検討することになります。
その中には、女性が「今日もありがとうございました」「会えて嬉しかったです」といったメールを送っていることがあります。
当初は、被害者の心理が知見として蓄積されていなかったため、このようなメールから「あなたも喜んでいたのでしょう、好きだったのでしょう」といって「合意だった」と判断されることがありました。
しかし、さまざまな裁判で被害者の心理が丁寧に検討されたことにより、今では、毎日しつこく無理強いされていた性暴力やセクハラが少しでも軽く済むように、被害者はニコニコして相手の機嫌を取ることがよくあることが明らかになっています。
「迎合メール」はもはや常識

また、もしも職場のセクハラにより精神疾患を発症した場合、被害者は労災保険を申請できます(1人でも人を雇っている会社は労災保険に加入する必要があるため、雇用されている方はほとんど全員申請できると考えてよいです)。
労働災害を認定するときには、まずは職場でセクハラ言動があったかどうかを検討するわけですが、その判断基準にも、以下のように明記されています。
セクシュアルハラスメントの被害者は、勤務を継続したいとか、セクシュアルハラスメントの行為者からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、 行為者の誘いを受け入れることがあるが、これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。
つまり、仮に被害者が送ったメールに一見「好意があるかのような」文章があったとしても、それをもってセクハラはなかったとか、両者には「合意があった」と判断する理由にはならないということです。
命を守ることが最優先
女性の拒否メッセージはあいまい

「会えて嬉しかった」という言葉が拒否の意味を持つこともあるなんて・・・ワケわからん。
そう思う方もたくさんいるかもしれません。
でもこれは、日本の女性に限られたことではないようです。
アメリカにおけるセクハラ問題研究の第一人者であるキャサリン・マッキノンさんは、次のように述べています。
女性の最も普通の反応は、起きたこと全体を無視するように努めつつ、見かけは喜んでいるように見せてたくみに男性のメンツを立ててやり、それで男性が満足して止めてくれるだろうと期待する、というものである。
女性がはっきりNOと言わないのは、望まない、不快で性的な誘いや働きかけに「逆らわずにいる」ことで女性は拒否のメッセージをあらわそうとする傾向を持っているためだそうです。
また、アメリカにおける強姦被害者の対処行動に関する研究でも、同じようなことが指摘されているようです。
強姦の脅迫を受け、または強姦される時点において、逃げたり、声を上げることによって強姦を防ごうとする直接的な行動(身体的抵抗)をとる者は被害者のうちの一部である。
身体的または心理的麻痺状態に陥る者、どうすれば安全に逃げられるか、または加害者をどうやって落ち着かせようかという選択可能な対応方法について考えを巡らす(認識的判断)にとどまる者、その状況から逃れるために加害者と会話を続けようとしたり、加害者の気持ちを変えるための説得をしよう(言語的戦略)とする者があると言われている。
逃げたり声を上げたりすることが一般的な対応であるとは限らないと言われている。
特に、職場における性的自由の侵害行為の場合には、職場での上下関係(上司と部下の関係)による抑圧や、同僚との友好関係を保つための抑圧が働き、これが、被害者が必ずしも身体的抵抗という手段を取らない要因として働くことが認められる。
とっさに命を守っているのではないか

迎合メールを送ってしまうことや身体的抵抗を取れないことがなぜなのかについて言及されているものは、まだ見つけられていません。
ただ、性暴力に対して明確に拒否の意思を示すことができないことについては、「日本の女性は奥ゆかしいから」なのではないことが分かります。
考えてみれば当然だと思います。
男女には圧倒的な筋力の差がありますから、命を落とすか、苦しみを受け入れて生きるかの選択を迫られたときに、自分でも理由が分からなかったとしても、(後に苦しみを受け入れて生き続けることが難しくなったとしても)そのときは命を守るための方法を選択するのは生き物として当たり前です。
また、身体的な性差もさることながら、私たち女性は「やめろ!」という言葉を持っていませんし、きっぱりと断ることをよしとされる機会もあまりありません。
冷静に考えたら、
「ヨイショして男性が止めてくれたら苦労しない」
と思うのですが、「命を取られるよりマシだ」と勝手に、とっさに自分の頭が判断した結果の行動なのではないかと思います。
知らないことが普通
女性が迎合メールを送ったり、身体的抵抗を取れないことがあるということについては、ハラスメントに関する裁判や、労務管理に関わっている人にとっては、共通認識となってきています。
しかし、冒頭に登場した男性のように、このような性的被害者の傾向を知らないのが普通だと思います。
そのため、被害を他人に訴えたとき、会社に相談したときに、「嫌なら嫌って言わなきゃ」とか「仲よくしてたじゃない」と言われたとして、それがむしろ普通の反応かもしれないと思います。
相談の聞き手に知識がなかったとしても、その方が自分だけの知識を当たり前と思わず、話を聴く姿勢を持ってくれればいいですが、そうでないときは、さっさと作戦を変えた方がいいかもしれません。
いい担当者に当たらなければ、分かってもらおうとこちらが努力するのも疲弊するだけですから、命の方が大事なので、大きい会社であれば異動という作戦を取るか、小さい会社であれば全力で転職活動しましょう。
まとめ
- 女性は、性暴力の加害者に対して「迎合メール」を送ったり、身体的抵抗を取らないことがある。
- これらは、交際は合意であったとかセクハラはなかったという理由にはならない。
- 職場では圧倒的な上下関係や、生き物として圧倒的な筋力の差があるため、女性はヨイショしているだけかもしれない。
- 相談した相手が、迎合や身体的抵抗の傾向について知らない可能性は大いにある。
- 神坪浩喜『本当に怖いセクハラパワハラ問題』(2019)労働調査会
- 厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会 第2回『セクシュアルハラスメント事案に係る分科会』議事録(2011年3月1日)」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号 平成23年12月26日)
- 牟田和恵『部長、その恋愛はセクハラです!』(2013)集英社新書