男の子は、微笑んでいると叱られることがあります。
私の兄は、体育会系の部活にて、「なにニヤけてんだ」と殴られたことがあるそうです。
一方、女の子は笑顔だとほめられることが多いです。
ほめられて育つことで、笑顔が自然と顔に染み付いていくこともあります。
その笑顔が、なぜか、「オレに気がある」という男性の勘違いに繋がることがあります。
男性の勘違い的セクハラ発言を受けたとき、私は「自分が悪かったのだろうか」と悩みました。
「自分が気を持たせるようなことをしたのだろうか?」
「周囲から仲がよいと見られるのは私の態度に問題があったのだろうか?」
ちがったんです。
自分を責める必要はなかったのです。
単に、男性は、笑顔で接してくれる女性が「自分に気がある」と勘違いするようにプログラムされているだけだったのです。
私たちが生きている意味
繁殖成功のため

私たちは、人間であり、動物であり、生き物ですから、繁殖に成功し自分の遺伝子を残すために生存しています。
職場にいても私たちは「ヒト」ですから、この前提は変わりません。
次の2つのうち、繁殖成功の可能性が高いのはどちらでしょうか。
- 女性にはその気がないのに「オレに気がある」と思う場合(ポジティブな誤解)
- 女性はその気なのに「オレなんてダメだ」と思う場合(ネガテイブな誤解)
1は、相手にフラれたりバカにされたり、セクハラだと言われて社会的な立場を失うかもしれません。
でも、2は、繁殖成功するチャンスをみすみす逃すことになります。
生き物にとって、繁殖成功するチャンスを逃すという代償の方がセクハラだと責められる代償よりはるかに大きいのです。
そのため、男性は「オレに気がある」とうぬぼれる方向に進化していきます。
自然は飛躍しない

これだけ近代化している世の中で、ハラスメントがタブーなのは当然。少し考えれば分かるでしょ。
私もそう思いたいですし、それで誰も傷つかなければハッピーです。
でも、残念ながら「私たちの脳は1万年変わらない」のです。
私たちは急に賢くなったり、急に理性が働いて利他的に行動できるようになるわけではないのです。
人類単位で環境に適応するというのは、ものすごく時間がかかることなんでしょうね。
例えば、私たちがいまだに砂糖や脂を好んでしまうのは、すでに砂糖や脂がありふれていて、大量に摂取する必要がないという環境に適応するのに、ものすごく時間がかかるからです。
職場においても、笑顔の女性を目の前にしたときに「オレに気がある」という勘違いをとめることは、生存目的に反するから難しいのでしょう。
その女性の笑顔が、単なる社交辞令や上下関係に基づいて気をつかっているだけだったとしても。
女性は「愛嬌だ」とか「笑顔がいいね」とほめられて育つので、なおさらやっかいです。
この相乗効果で、男性の勘違いがセクハラ問題を引き起こしてしまうのです。
勘違いがセクハラを引き起こす
勘違いが「合意」に見せてしまう

職場のセクハラの典型例は2つあります。
1つは、女性の反応に関係なく、一方的に性的言動を繰り返すパターン。
もう1つは、男性から見ると女性が明確に拒絶していないため、合意であり恋愛だと勘違いしてしまうパターンです。
確かに、職場では男女間に上下関係があることが多いですから、女性がその男性に対し、仕事において本当に尊敬していたり、あるいは気をつかってゴマすりすることはあります。
女性から見たらただの日常会話、あるいは少しのゴマすりだったとしても、男性はポジティブに、しかも性的な誘いと受け取ることがあるという、悲しくて大きなギャップがあります。
そして、実際に男女の間柄っぽい会話があったり、性的な関係があったとしても、合意であるかどうかは別の話なのです。
「合意」を証明するのは難しい

一度、人事部にセクハラと訴えられた場合、「合意の上だった」という主張を通すのは難しいでしょう。
本当に合意ならば被害を訴えないでしょうし、本当に冤罪ならば何人かが当事者や周囲にヒアリングをすれば、なんとなく感じるところがあると思います。
職場における圧倒的な上下関係から、「NO」といえないまま下ネタに付き合っているだけかもしれません。
社会的な差だけでなく、女性は男性と圧倒的な筋力の差があり、命を守るためには拒絶の意思を明確に示すことができません。
性暴力の被害者のうち、明確に拒絶の意思を示せた人はごく一部であることが分かっています。
それどころか、性的関係を強要された場合、そのショックを自らやわらげるために「私のことを大事にしてくれているはず」、「私のことを傷つけるのは本心ではないはず」と思い込んで自分を守ろうとします。
被害を訴えるまでに時間がかかることもあるため、男性にとって都合のいい関係がしばらく続いているからといって、それが合意だとは限りません。
このように女性の思考は、男性が見ている世界とはまるで違っていることがあるのです。
セクハラの被害に気がついたとき
ただ元気に過ごして働いているだけなのに、勘違いされてセクハラされてしまうことがある。
「悪い人ではないはず」としばらく我慢していても、我慢の限界で人に相談しても、「仲良かったじゃない」とか「嫌なら嫌と言わないと分からないよ」と自分を否定された場合。
会社が相談にのってくれた、調査してくれたとしても、男性の方が立場が上、あるいは役職がついているといった理由で加害者である男性を守ろうとする会社もあります。
自分を責めてしまったり、自分だけの力だけでは現状を打開できないと感じたら、全力で転職しましょう。
まとめ
- 繁殖成功のため、男性は「あの女はオレに気がある」と勘違いするよう進化する
- この勘違いにより「女性も合意している」と思い込むが、女性にとってはセクハラになることがある。
- 社会的な上下関係、生命を守るためにも、女性は明確に拒絶の意思を示すことができない。
- 勇気を出して被害を訴えても加害者を守ろうとする会社なら、全力で転職活動しよう。
- アラン・S・ミラー、サトシ・カナザワ『進化心理学から考えるホモサピエンス』(2019)パンローリング株式会社
- 牟田和恵『部長、その恋愛はセクハラです!』(2013)集英社新書