パートに有給休暇を取らせたことがない
とか、
パートの労働条件って曖昧なままなんだよね
という会社さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
ですがもちろん、パートタイマーにも労働基準法が適用され、労務管理が必要です。
正社員は労働条件が画一的なことが多いと思いますが、パートタイマーはバラバラなことが多いかなと思います。
そのため、正社員とは違った労務管理の手間がかかります。
今回は、パートタイマーを雇うにあたり特に気をつけたいポイントを4つご紹介します。
雇用時には労働条件を明示する!
パートさんを雇うときには、まず何に気をつけたらよいでしょうか?
雇用するときに、そのパートさんの労働条件を書面にして、渡しておくことが必要です
その書面には何を書けばよいですか?
少なくとも10個の事項を書かなければなりません
まず、パートタイマーを雇うときには、労働条件を明示しなければなりません。(労働基準法第15条)
労働基準法に定められた事項は14個あります。
そのうち1〜6は、5の昇給に関する事項を除き、書面で明示する必要があります。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
「雇用契約書」「労働契約書」「労働条件通知書」など、書面の名称は問われません。
「労働条件通知書」であれば、厚生労働省がひな型を配布しています。
厚生労働省「労働条件通知書」(外部リンクが開きます)
さらに、パートタイマーや期間の定めを設けて人を雇うときには、次の4つも書面にして明示しなければなりません。(パート有期雇用労働法第6条)
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
4については、パートタイマーからの苦情も含めて、相談部署や相談窓口を伝えておく必要があるというものです。
労働基準法に定められた14項目を明示するルールに違反した場合は、30万円以下の罰金という罰則が設けられています。
2019年には、悪質な事例として22件が送検されています。(厚生労働省労働基準局「平成31年・令和元年労働基準監督年報」)
パート有期雇用労働法の4項目を明示するルールに違反した場合は、10万円以下の過料に処すると決められています。
パートタイマーを雇うときに決めなければいけないことや書かなければいけないことは、意外と多いですよね。
のちのちトラブルを起こさせないためにも、パートタイマーの労働条件を整理しておきましょう。
パートタイマーを雇うときに明示しなければならない労働条件は18個あり、そのうち10個は書面で明らかにしなければなりません
同一労働同一賃金にどう対応する?
パートさんを雇うときには労働条件を明示しなければならないんですね!
絶対に書面に書かなきゃいけない項目は10個でしたね
パートさんを雇うとき、ほかに気をつけた方がいいことはありますか?
パートさんに説明しなければならないことが、他にいくつかあります
「同一労働同一賃金」と聞くと、
「正社員とパートタイマーの賃金を同じにしなければならないの?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
仕事の内容や責任の程度、地域の賃金相場やその他の背景事情など、両者の賃金が異なっている理由はさまざまあるのではないかと思います。
同一労働同一賃金は、「パート有期雇用労働法」という法律に定めがあります。
パートタイマーの賃金を見直すよりも大事な、やらなければならないことが一つあります。
それは、パートタイマーを雇うときに、以下の6つについて説明することです。(パート有期雇用労働法第14条1項)
- 正社員の労働条件とは不合理な相違を設けていないこと
- パートだからといって労働条件に差別的な取り扱いをしていないこと
- どのようにパートタイマーの賃金を設定しているか
- 仕事の内容に応じてどのような教育訓練を実施しているか
- どのような福利厚生施設が使えるか
- 正社員に転換する方法はどのようなものか
正社員とパートタイマーの労働条件がどの程度同じ(違う)であるべきかの判断は、裁判所しかできません。
しかし、この6つの事項を説明したかしてないかは明らかに判断できるので、行政指導の対象になる可能性があります。
「同一労働同一賃金」という言葉が一人歩きして、原資は限られているわけですから結果的に正社員の賃金を下げることをするのであれば、まずは雇用時の説明義務を果たしているかチェックすることの方が優先度が高いと考えます。
パートタイマーを雇うときには、正社員の労働条件とは不合理な相違を設けていないことなど、6つの事項を説明しなければなりません
契約更新手続きをちゃんとやる!
パートさんを雇うときに説明しなくちゃいけないことが6つあるんですね!
賃金の見直しよりも優先度は高いと思われます
パートさんを雇うときのポイントの3つ目は何ですか?
契約期間に定めがあるときに更新手続きをきちんとすることが大切です!
パートタイマーの労働条件に、「労働契約は1年間とする」などと、期間の定めを設けていることがあると思います。
ポイント一つ目の「労働条件の明示」は、働いてもらう最初のタイミングだけでなく、契約期間が終了して再締結するときにも適用されます。
期間の定めのある労働契約で問題となるのは、労働契約を終了するときです。
労働契約書には「1年間」と書いてあるのに、その後更新の手続きをせず何年も働かせていれば、
「私は正社員と同じような働きをしています!」
「勝手に労働契約を終了することはできないはずです!」
といった主張に繋がりかねません。
そのため、労働契約を更新するのであればそのタイミングで、契約期間を変更した労働契約書を改めて取り交わします。
その他の労働条件も変更する部分があるならば、従業員の同意を得た上で変更し、書面にします。
手間ではありますが、労務管理においては従業員とのトラブルを回避することが大切なことの一つですので、ルーティーンにしてしまいましょう。
パートタイマーとの労働契約に期間の定めがあれば、契約更新時に労働契約書を交わして手続きをきちんと行いましょう
割増賃金と年次有給休暇
期間の定めを設けたら更新手続きをきちんとした方がいいんですね
手続きをきちんとしないと、実質は無期契約だと判断されかねません
まだ年次有給休暇の話が出てきてませんが・・・
最後は日常の労務管理に関するポイントです!
最後の4つ目は、パートタイマーの割増賃金と年次有給休暇です。
まず割増賃金、いわゆる「残業代」についてです。
同一労働同一賃金の議論に巻き込まれないためにも、パートタイマーにはあまり残業をさせない方がいいとは思います。
しかしながら実際には、残業させなければならない場面もあると思います。
残業させた場合には、当然ながら割増賃金の支払いが必須です。(労働基準法第37条)
ここでいう残業は、原則、1週40時間・1日8時間を超えた労働時間を指します。
また、週1日しか休日がない場合にその休日に働かせたときや、22時〜翌5時の深夜に働かせたときにも割増賃金の支払いが必要です。
法律で決められている割増賃金率は、下表の通りです。
割増賃金率 | 備考 | |
---|---|---|
法定労働時間を超えたとき | 25% | 1週40時間・1日8時間以上 |
月60時間を超えたとき | 50% | 中小企業は2023年4月から適用 |
法定休日に働かせたとき | 35% | 週1日の休日が法定休日 |
深夜に働かせたとき | 25% | 22時〜翌5時が深夜 |
法定時間外かつ深夜労働 | 50% | 法定時間外労働25%+深夜労働25% |
月60時間超かつ深夜労働 | 75% | 法定時間外労働が月60時間超50%+深夜労働25% 中小企業は2023年4月から適用 |
中小企業かどうかは、下表に当てはまるかどうかで判断されます。(中小企業庁「中小企業・小規模企業社の定義」より)
業種分類 | 資本金の額・出資の総額 | 常時使用する従業員の数 | |
---|---|---|---|
製造業その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
パートさんにも割増賃金をきちんと支払っているか、改めて確認が必要ですね
割増賃金の必要性において雇用形態は関係ないですよね
年次有給休暇の管理はどうすればよいですか?
パートさんが1週間にどのくらい働くかによって変わります
パートさんであっても、もちろん労働基準法が適用されるため、年次有給休暇も与えなければなりません。(労働基準法第39条3項)
最低限与えなければならない日数も、下表の通り決められています。
週所定労働日数 | 1年間の 所定労働日数 | 継続勤務年数 0.5年 | 継続勤務年数 1.5年 | 継続勤務年数 2.5年 | 継続勤務年数 3.5年 | 継続勤務年数 4.5年 | 継続勤務年数 5.5年 | 継続勤務年数 6.5年以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5日以上 | 217日〜 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
4日 | 169日〜216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121日〜168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
2日 | 73日〜120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
1日 | 48日〜72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
まず、週の所定労働時間が30時間以上ならば、パートタイマーであっても、入社半年の時点で年次有給休暇を10日付与します。
週の所定労働時間が30日未満であって、週の所定労働日数が4日〜1日ならば、入社半年の時点で7日〜1日与えることになります。
週の所定労働日数や時間数が決まっていない場合は「1年間の所定労働日数」を合計して、何日間年次有給休暇を与えなければならないかを表から求めます。
もちろん、欠勤が多いなどで出勤率が8割に至っていないパートタイマーには、年次有給休暇を付与する法的な義務はありません。
また注意が必要なのは、以下のパートタイマーです。
- 週所定労働日数が5日で継続勤務年数が0.5年以上
- 週所定労働日数が4日で継続勤務年数が3.5年以上
- 週所定労働日数が3日で継続勤務年数が5.5年以上
この方々は、1年間に年次有給休暇を付与する日数が10日以上になります(表の赤字部分)。
そうすると、1年間に5日は年次有給休暇を取得させなければならないことになります。(労働基準法第39条7項)
これを、年次有給休暇の「時季指定義務」といいます。
働く日数が比較的多いパートタイマーは、「年次有給休暇を何日与えなければならないか」だけでなく「1年に何日取得しているか」も管理しなければならないということです。
時季指定義務については、以下の記事もご覧ください。
パートタイマーにも残業させたら残業代が必要だし、年次有給休暇も与えなければなりません
パートタイマーへの労働基準法適用まとめ
- 雇用時には、労働契約書などで少なくとも10個の労働条件を明示しなければならない。
- 雇用時には、正社員の労働条件とは不合理な相違を設けていないことなど、6つの事項を説明しなければならない。
- 有期契約なら契約更新時に労働契約書を再締結した方がよい。
- 日頃の労務管理では割増賃金の支払いと年次有給休暇の付与を確認することが大切。