【基礎知識】パワハラの法律と裁判例

パワハラ防止法と裁判例
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2020年6月1日に、「パワハラ防止法が施行された」などとよくいいます。

パワハラをしない、パワハラを受けないための基礎知識として、まずは、この法律がつくられた経緯や中身を知っておくとよいでしょう。

今回は、パワハラ防止法とは何なのか、裁判ではどのような事例が争われているのかを紹介します。

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法律がつくられた経緯

いじめ・嫌がらせ相談の増加

パワハラ防止法がつくられた経緯の一つは、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談の増加です。

民事上の個別労働紛争の主な相談内容別の件数推移(10年間)
厚生労働省「『令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します」(2021年6月30日)より

全国の都道府県労働局や労働基準監督署の「総合労働相談コーナー」では、あらゆる労働問題の相談を受け付けています。

その相談内容は、2012年以降9年連続で「いじめ・嫌がらせ」がトップです。

その数は、自己都合退職と解雇を合わせた件数よりも多いのです。

長時間労働とパワハラで女性の新入社員が自殺してしまった電通事件も一つのきっかけになったのでしょうが、全国的に見ても、パワハラ問題に困っている方がかなり多いことが、パワハラ防止法施行につながったと考えられます。

「人間関係」は立派な離職理由になる

また、職場の人間関係を理由に離職してしまう人が多くいることも、パワハラ防止法施行の経緯の一つです。

男性が回答した離職理由としては、「その他(27.4%)」を除くと、「定年・契約期間の満了(16.6%)」、「労働条件が悪かった(11.2%)」の次に、「職場の人間関係が好ましくなかった(9.3%)」があげられています。

一方女性の回答では、「その他(26.6%)」を除くと、「職場の人間関係が好ましくなかった」が14.8%で最も高くなっているのです。

しかも、男女ともに、「職場の人間関係が好ましくなかった」という離職理由が、前年と比べて一番上昇しました(男性1.6ポイント、女性3ポイント上昇)。

人間関係に悩まされることが多い職場では、離職者が多発してしまう可能性が高いといえるでしょう。

2020年パワハラ防止法スタート

パワハラの定義が明らかになった

2020年までは、セクハラやマタハラと異なり、パワハラには法律上の定義がありませんでした。

そのため、パワハラが起きている会社に対して行政が指導することはできませんでしたし、会社に「パワハラを受けています」と相談しても、相談に応じたり調査したりする基準がありませんでした。

会社では、働く人に対して注意・指導することは当然ありますから、パワハラと正当な指導がどのように違うのかを知っておく必要があります。

「パワハラですよ!」と主張されればすべてパワハラになってしまうわけではありませんから、

これはパワハラではありません。業務上必要な指導です。

と、当然、言っていいのです。

一方、パワハラを受けているのではないかと感じる方も、定義に当てはめて考えてみて、明らかに業務の範囲を超えているなと判断できれば、会社に相談したり、その環境から逃げることを冷静に検討することもできるわけです。

職場におけるパワハラは、次の3つの要素をすべて満たすものと定義されました。(労働施策総合推進法第30条の2)

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

パワハラ定義の注意点

ここでいう「職場」には、いつも働いている場所だけでなく、例えば、参加が義務付けられている研修会や飲み会の場も含まれます。

また、労働者には、正社員だけでなく、もちろん、パートタイマーや契約社員などのいわゆる非正規社員も含まれます。

1の「優越的な関係」は、上司から部下だけに限られません。部下から上司、同僚同士、集団対個人なども指します。

2の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、「普通に考えて許容範囲を超えているよね」というものです。実務上は、言動の背景や回数、関係性などを総合的、個別具体的に検討します。

3の「労働者の就業環境が害される」とは、身体的・精神的な苦痛があって能力が発揮できない状況になることをいいます。

パワハラ言動の具体例

法律に定義づけられた上で、パワハラ言動の具体例としては、次の6つが挙げられています。

  1. 身体的な攻撃(暴行・障害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕 事を与えないこと)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

ただし、これらは法律に書かれているのではなく、「指針」というものに書かれているものですので、定義ではなく具体例にすぎません。

「この6つに当てはまらなければパワハラではない」というわけではありません。

また、

「この6つのどれかに当てはまったらパワハラ」というわけでもありません。

実際には、背景事情や言動の内容や回数、度合いなどを見て、総合的、個別具体的に判断されるのです。

会社に義務付けられたこと

パワハラ防止法の立てつけ

パワハラ防止法の立てつけ

皆さんがよく知っている労働基準法には、「1週40時間、1日8時間を超えて働かせる場合には、36(サブロク)協定を締結し、届け出なければならない」という決まりがあります。

「1週40時間、1日8時間」という基準を超えているか、その会社が36協定を締結・届け出ているかは、調べれば明らかになることです。

そのため、「悪質な会社は送検する」と決めることができます。

しかし、パワハラの場合は、その定義からも分かる通り、「この言動はパワハラだ」とか「この言動はパワハラではない」と明確な線引きはできません。

したがって、「パワハラ問題を起こすような会社は法違反だから罰する」と、あらかじめ決めることはできないのです。

よって、パワハラ防止法では、「会社はパワハラを防止するために、いくつかの措置を講じてください」ということのみが決められました。

パワハラ防止のための措置とは?

会社がやらなければならない、パワハラ防止のための措置は、次の3つです(中小企業は、現在は努力義務で、2022年4月1日より義務化されます)。

  1. パワハラを行ってはならないという会社の方針を明らかにして、それを周知・啓発すること
  2. パワハラに関する相談や苦情に適切に対応するための体制を整えること
  3. パワハラ問題が発生したら、速やかに適切に対応すること

1は、会社がどの程度パワハラ対策に力を入れるかにもよりますが、最低限必要なのは、就業規則の服務規律と懲戒規定にパワハラについて追加し、周知することです。

2は、セクハラやマタハラを含めたハラスメント相談窓口を設置する(担当者を決める)例が多いです。外部の機関に委託できるようなサービスもあります。

3は、2の相談窓口に相談があったら、事実関係を調査してパワハラか否かを判断し、被害を訴えた方をフォローする、加害が認定されたらその方の処分をどうするかを決定する必要があります。

「被害を訴えてくる人がいなければ問題ない」と考えるのは危険です。

裁判になったときには、会社は何らかの対策をしていたかどうかも含めて判断されますので、リスク管理のためにも対応しておきましょう。

裁判ではどのように判断される?

セクハラやマタハラよりも、パワハラは判断が難しいのではないかと思います。

セクハラは、「性的な言動は業務に関係ない」ということが明確です。

マタハラは、「降格した」とか「賞与をゼロにした」ことが、育休を取得したこと以上の不利益を与えたのかを争われる事例が多いです。

これらに対し、パワハラは、業務上の必要性や程度を超えているかどうかの判断が難しいのです。

ここでは、第一審と控訴審で判断が分かれた事例を紹介します。

  • 控訴審で慰謝料が減額された例
    準社員Xが、面談時に罵倒されたことや出向して清掃業務をするよう命じられたことが会社の不法行為であると訴えた。第一審では慰謝料300万円と判断されたが、控訴審ではXが人事担当者に対してふてくされたり横を向くなどの不遜な態度を取り続けたことが併せて判断され、慰謝料10万円とされた。(三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件 広島高松江支判 平21.5.22)
  • 控訴審で慰謝料がゼロ円となった例
    うつ病を発症し自殺してしまった従業員の相続人が、会社からのノルマ達成の強要と執拗な叱責が原因だと訴えた。第一審では損害賠償金約2,300万円と判断されたが、控訴審では過去の実績を踏まえて目標が立てられていたことや、当該従業員が架空出来高の計上を行なっていたことなどが併せて判断され、会社が行った指導や叱責は業務上の範囲を超えたものではないとされた。(前田道路事件 高松高判 平21.4.23)
  • 配転命令が嫌がらせかどうか判断が分かれた例
    コンプライアンス室に通報したことのある従業員が、会社に命じられた配転はその報復であると主張した。第一審では業務上の必要性のある命令だと判断されたが、控訴審では配転命令を検討し始めたのは内部通報の直後であることや、業務上の必要なく制裁的に命じられたと判断され、配転命令無効、および慰謝料約176万円とされた。(オリンパス事件 東京高判 平23.8.31)
  • 控訴審で一定割合減額された例
    精神疾患を発症し自殺してしまった従業員の相続人が、会社での長時間労働や暴行が原因だと訴えた。第一審では逸失利益や慰謝料など合計約4,500万円の支払いが命じられたが、控訴審では当該従業員が何十回以上も同じ仕事上の間違いを繰り返していたこと、業務により精神疾患を発症していた証拠がないことなどが併せて判断され、会社にすべての責任を負わせるのは公平ではないから、50%相当額の減額がなされた。(A庵経営者事件 福岡高判 平29.1.18)

まとめ

  • 法律でパワハラの定義が明確になったことで、会社も働く人も、検討する基準ができた。
  • 会社はパワハラ防止のために、就業規則の改定・周知、相談窓口の整備、問題発生時の対応の3つを行わなければならない。
  • パワハラは業務上の注意指導と線引きが難しく、裁判でも判断が分かれることがある。
  • パワハラをしない、させないためにも、法律の定義と判断の難しさを知っておくことが大切。
参考資料
  • 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年1月15日)
  • 厚生労働省「『令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します」(2020年7月1日)
  • 厚生労働省「2019年雇用動向調査結果の概要」(2020年9月30日)
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