【職場の必須知識】女の身体のしくみを知ろう

女性の身体

女性自身でさえ、自分の身体のことを習う機会はありません。

男性なら、なおさらです。

小学校で男女に分けられ、女の子は生理の話をさらっと聞き、男の子は校庭でドッヂボールをしていた時から、私たちの知識はとまっています。

10代の女の子は、生理痛が辛くてもどうしたらよいか分からないまま、市販の薬でガマンして学校へ行きます。

大人になってからは、生理前にイライラしてしまい職場で感情をコントロールできず、男性上司には相談できず、人知れず落ち込んでいるかもしれません。

あるいは、病気になったり、子どもをつくったりできなくて悩んではじめて、自分の身体のしくみに気がついているかもしれません。

職業人生が長くなっている今、産休や育休を経て働き続ける女性、定年まで働き続ける女性はめずらしくなくなりました。

成人女性の身体が日々どのように変化するか、また、妊娠・出産・育児、更年期や閉経を経てどのように変化するかを知らなければ、健康に働く・働かせることなどできません。

女性自身はもちろん、女性と一緒に働く男性にとっても必須の知識です。

月経周期と女性ホルモンの周期

エストロゲンとプロゲステロン

誰でも、女性には約1ヶ月に1回生理(月経)があるというくらいは知っていることと思います。

生理とは、子宮内膜が出血をともなってはがれ落ち、体外へ排出されることですが、身体の変化はそれだけではありません。

腹痛や頭痛などの身体的な痛みのほか、イライラや不安、憂鬱になるといった変化があり、人によってさまざまです。

その変化の原因は、「エストロゲン」と「プロゲステロン」というホルモンの脳への働きです。

エストロゲンとは、よい気分にしてくれる脳内化学物質の仲間です。

一方プロゲステロンは、エストロゲンの効果をひっくり返したり、鎮静剤の役割を果たします。

生理は出血するだけじゃない

エストロゲンとプロゲステロンの周期
ローアン・ブリゼンディーン『女性脳の特性と行動』(64ページ)より

1ヶ月の周期は、大まかにこのようになっています。

月経の後にはエストロゲン・レベルが上昇し、月経の前にはプロゲステロン・レベルが上昇するというものです。

この周期は、月経が始まる10〜14歳から閉経する50歳くらいまで続きます。

そして、この周期は、他者からのフィードバックの受け取り方にも影響するのです。

エストロゲンは、よい気分にしてくれるホルモンなので、他者からのフィードバックによって自信がさらに強化されます

しかし、プロゲステロンはその効果をひっくり返すので、他者からのフィードバックによって自信が壊滅状態になります

職場は、他者からのフィードバックであふれかえっています。

上司からの同じ一言でも、次の日休んでしまいたくなるほどヘコんだり、泣きたくないのに涙が出てくるのです。

これは、ワガママだとか泣き虫だというより、まさに生理現象なのです。

男性にも、疲れている日やカゼ気味の日がありますよね。それと同じです。

月経前症候群(PMS)とは

月経前症候群(PMS)

月経の前にプロゲステロン・レベルが上昇し、精神的、あるいは身体的に何らかの症状が出ることを「月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)」といいます。

月経の前の3〜10日程度続き、月経開始とともに症状が軽くなったり、消滅します。

精神神経症状としては、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感があります。

身体的症状としては、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがあります。

月経のある女性の約70~80%が、これらのうちの何らかの症状があるそうです。

どの症状があらわれるかは人によってさまざまですし、月によっても違ったりします。

とくに精神状態が強い場合には、月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dyspholic disorder)と呼ばれています。

PMSは、もはや一般常識として知っておくべきでしょう。

妊娠・出産・育児で変わる脳

妊娠時のプロゲステロン大量放出

最近では、遺伝学と脳画像撮影技術によって、神経科学や脳の研究が発展しているそうです。

そのため、妊娠〜出産〜育児を経て、女性の「脳が変わる」ということが分かってきました。

まず、妊娠すると鎮静剤の役割を果たすプロゲステロンのレベルが上昇します。

妊娠2ヶ月から4ヶ月には、このレベルは通常の10倍から100倍になるそうです。

体内で人間が育っていくわけですから身体に多大な負荷がかかっているのですが、この急上昇した鎮静剤代わりのプロゲステロンのおかげで脳の回路は落ち着き、ストレスから守られます。

「脳が変わる」なんて大袈裟だと思う方もいるかもしれませんが、原因は分からないものの、妊娠中には脳の大きさが変わることも分かっているそうです。

fMRIで撮影した脳画像によると、妊娠6ヶ月から出産までは脳が縮み、産後6ヶ月ほどで徐々に元に戻るそうなのです。

どのように変化するかはまだまだ分からない部分も多いそうですが、脳の大きさが変わるくらいなので、何らかの変化が起こっていることは確かなように思えます。

出産後のオキシトシン大量放出

出産時には、妊娠時に急上昇したプロゲステロンが急降下し、「オキシトシン」が大量放出されます。

オキシトシンとは、人助けや世話焼きに喜びを見出すホルモンです。

聴覚、触覚、視覚、嗅覚が非常に敏感になり、子どもを保護することが最重要課題になり、攻撃性も増します

特に出産後半年くらいは、集中力のすべてが子どもの保護に向けられます。

共働きが増えている世の中で、希望すれば男性も育児休暇を取得できる体制になるべきだとは思いますが、出産と授乳は女性にしかできないことを考えると、その期間の長短は、法的には差異がないとしても、実態としてはある程度仕方がないことのように思えます。

そして、育児と授乳により急上昇したオキシトシン・レベルも、職場復帰や断乳により低下し、不安で落ち着かない状態になることもあるといいます。

閉経で変わる脳

「更年期障害」と呼ばれる症状の出現

更年期障害

かつて、女性の定年は50歳、男性の定年は55歳の時代がありました。

これからは、60歳どころか、70歳まで雇われて働く可能性が出てきています。

閉経する年齢は、平均50歳といわれています。

つまり、職場で働く女性は、妊娠・出産・育児を経て、さらに閉経を経て働き続ける可能性があるということです。

まずは閉経の前、40歳すぎに、よい気分にさせてくれる「エストロゲン」のレベルが低下してきます。

そして、閉経の2年前くらいから、体内でつくられるエストロゲンの量が不安定になります。

50%から60%の女性が、何らかの更年期障害を経験するといわれています。

症状は、例えば、肩こり、疲れやすさ、頭痛、のぼせ、腹痛、汗をかく、が代表的なものです。

ホルモンの影響のほか、心理的なものや仕事や家庭環境も要因となると考えられています。

ちなみに、男性にも更年期障害が生じることが分かっているそうです。

閉経してから

そして、閉経する、つまり、約1ヶ月に1回子宮内膜が出血とともにはがれ落ちるという生理が終わると、エストロゲンとプロゲステロンの周期も安定します。

同時に、オキシトシン・レベルも低下します。

以前ほど感情的になることもなければ、人を喜ばせたり世話をすることにも関心がなくなります。

子どもを保護することが最重要課題ではなくなり、自分のことに集中したいという衝動が生まれることもあります。

ただ、世話をする関心が永久に失われることはなく、孫世代を世話することに注力する人もいれば、一方で、自分の仕事に集中したり新たなことに挑戦したりする人もいます。

このように、子ども時代、子どもを産んだ人は妊娠中以来、久しぶりにホルモン・レベルが安定します。

つまり、それ以外の長い期間、大人になってから50代半ばまで、女性の身体は常に不安定な変化の中にあるのです。

まとめ

  • 月経前には、他者からのフィードバックを敏感に受け取り、自信を喪失することもある。
  • 妊娠・出産・育児でも脳が変わる。育児期間中は、保護本能が全開になり攻撃性が増す。
  • 50歳前後で更年期障害の症状が生じて不安定になるが、閉経後は安定する。人の世話に注力する人もいれば、自分のことに集中する人もいる。
  • 女性とともに働く人は誰でも、日々変化し、ライフサイクルによっても変化する女性の身体の特徴を知っておくべき。
参考資料
  • ローアン・ブリゼンディーン『女性脳の特性と行動 深層心理のメカニズム』(2018)パンローリング株式会社
  • 公益社団法人日本産科婦人科学会」ホームページ
  • 更年期ラボ(大塚製薬)」ホームページ