「男女平等!」と叫ばれて久しいですが、こと労働基準法においては、男性と女性が必ずしも同じ取り扱いがされているわけではありません。
労働基準法と、それとセットの労働安全衛生法の目的の一つは、労働者の身体を守ることです。
男性と女性では身体が異なるため、その違いを反映したルールもあるのです。
今回は、労働基準法の「育児時間」と「生理休暇」についてご紹介します。
「育児時間」は女性のみ!?
労働基準法では男女で違うルールがあるんですね
「母体保護」を目的に、いくつかルールが作られていますね
たとえばどんなルールがあるのでしょうか?
「育児時間」というルールがあります
労働基準法には、「育児時間」という制度があります。
1歳未満の子どもを育てる「女性」が請求した場合は、1日2回それぞれ最大30分を子どもを育てるための時間に使うことができるという制度です。
この育児時間は、もちろん、就業時間の間に通常の休憩時間と別に請求するものです。
育児時間中は、業務に従事していないので、会社はその時間に対するお給料を支払う義務はありません。
通常、お給料は支払われないものの、サボりや遅刻とは違って、目的のある時間として請求できるわけです。
想定されている典型例は、職場近くの施設に子どもを預けていて、母乳・ミルクを与えたり様子を見にくといったことです。
今では在宅勤務をされていて、家で仕事をしながら育児もしている方もいらっしゃると思います。
在宅勤務中にも、正当な制度として育児時間を請求することは、可能なのです。
また、保育所が自宅の近くで職場からは遠いのであれば、朝や終業時間前に請求することもできます。
「1日1回60分」という請求の仕方も可能です。
このように、育児時間は「女性」だけが請求できるのですが、果たして実態に合っているのでしょうか?
労働基準法は、労働条件の「最低基準」を定めた法律です。
そのため、「少なくとも1歳未満の子どもを育てる女性労働者は」育児時間が必要だろうから、請求された場合には会社は対応しろ、という立て付けなのです。
個別の事情をみれば、男性が育児時間を取得して中抜けし、子どもの様子を見る必要がある事情もあるでしょう。
1歳以上の子どもを持つ女性も、同じだと思います。
労働基準法は最低基準なので、その基準より上の取り扱いをするのは自由です。
自社の従業員の事情に合っていないなら、たとえば3歳までの子どもを持つ従業員(男女)は育児時間を請求できるというルールを作ってもいいですし、1歳未満の子どもを持つ女性従業員の育児時間の給料は控除しないというルールを作ってもいいです。
最低基準を守るのは当然ですが、かたく考えすぎないことも大事だと思います。
なお、育児のための制度を「男女平等」に認めているのは、育児介護休業法です。
たとえば、朝子どもを病院に連れて行ってから出社するために始業時刻に遅れてしまう、といったときに使えるのは、「子の看護休暇の時間単位取得」という制度です。
男女ともに、小学校に入る前の子どもを育てている従業員は、子の看護休暇を取得できます。
2021年1月より、子の看護休暇は、時間単位でも取得できるようになりました。
育児時間とは異なり、中抜けではなく、原則始業・終業時刻に連続して取得するものです。
労働基準法は労働者の身体を守るという目的がある一方、育児介護休業法は、制度設計が主な目的なので、上記のような違いが現れているものと思います。
1歳未満の子どもを育てる女性労働者は、1日2回30分ずつ育児時間を取得できます
「生理休暇」は女性のみ!
育児時間っていう制度は知りませんでした
知ってたら使いたい人もいるかもしれませんね
男女で違うルールは他にありますか?
「生理休暇」について紹介します
労働基準法には、「生理休暇」という制度もあります。
生理日に働くのが著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その方を働かせてはいけないという制度です。
1日・半日単位でも、時間単位の請求でもOKです。
生理休暇も、業務に従事していないので、会社は、その日・その時間に対するお給料を支払う義務はありません。
生理休暇は、子どもという相手がいる育児時間と違って、その「困難度合い」は自己申告によるものです。
ここで注意が必要なのは、生理は、同じ女性であっても辛さや症状が全然異なるということです。
そのことを、女性自身も知らない可能性があります。
もし、生理休暇を取得した従業員の上長である女性が
「私は、生理で休むほど辛かったことなんてない」
と言ってたとしても、それはその人のみの症状に過ぎません。
一般論ではないのです。
これを聞いた男性管理者が「生理で休むのは大袈裟だ」と考えるのは誤りですので、ご注意ください。
女性の身体の基礎知識については、以下の記事をご覧ください。
生理休暇は、女性のみが取得できるものです。
更年期障害については、男性も何らかの症状が出るケースがあるといわれていますし、男性も月の中でホルモンバランスが変わるのでは?といった研究もあるようですが、一般的な知見にはなっていません。
育児時間と同様、労働基準法は「最低基準」なので、「少なくとも生理が辛い女性労働者は」仕事ができない日もあるだろうから、請求された場合には会社は対応しろ、というルールなのです。
生理休暇の取得率は、年々減少しており、現在は約0.9%です。(厚生労働省「令和2年度雇用均等調査」)
減少している理由は、不明です。
年次有給休暇の取得率が上昇している(年次有給休暇を取得しやすくなっている)ことと関係あるかもしれませんし、ないかもしれません。
ただ、生理休暇の代わりに年次有給休暇を取得しているとしても、年次有給休暇は身体を休めてリフレッシュすることが目的の第一であり、生理でしんどいときに取得して消化してしまうのは、なんだか理不尽な気はします・・・
また、「生理で辛いから休む」と上長に連絡するのも、かなり心理的なハードルが高いと思われます。
相当な信頼関係が必要です。
生理日に働くのが著しく困難な女性は、生理休暇を取得できます
「男女平等」とは?
賃金や地位など、雇用社会における男女格差の話をするとき、「男女平等」のみがフォーカスされることがあります。
男と女の扱いを同じにすればそれでいい
とか、
女性は管理職になりたがらないのだから賃金格差があっても仕方ない、差別は是正されている
といったことです。
「平等」とは、同じ扱いにすることです。
格差を是正するには、確かに必要なことです。
たとえば、「女性だから」という理由のみで教育訓練や昇進の機会を与えないことは差別にあたります。
このような状態に対して、同じ機会を与えるのは「平等にする」ことです。
ただし、「平等」だけでは足りないと考えます。
「公平」も必要です。
たとえば、女性管理職の割合が低いとして、「女性の昇進を拒否する制度はないのだから男女平等」という考え方もあります。
機会自体は平等に与えられているのだから、女性を優先して昇進させるのは、むしろ男性差別だという考え方もあります。
しかし、「同じ扱い」だけではむしろ差別につながるのであれば、「公平な扱い」が必要です。
Aは〇〇という特徴があるのだからA’の制度を適用し、一方でBは△△という特徴があるからB’の制度を適用する
というのは、「同じ扱い」ではありませんが、「公平な扱い」です。
したがって、労働基準法で定められた「育児時間」も「生理休暇」も、女性優遇ではないと考えます。
労働基準法は、労働条件の「最低基準」に過ぎません。
法律の内容を知った上で、自社に適したルールを検討するようにしましょう。
人事労務には、「平等」「公平」どちらも大切だと考えます
育児時間と生理休暇のルールまとめ
- 1歳未満の子どもを育てる女性労働者は、1日2回それぞれ最大30分「育児時間」を請求できる
- 生理日に働くのが著しく困難な女性は、「生理休暇」を請求できる
- 人事労務には、「平等」も「公平」も大切