一般的に、労働問題に関する法律をまとめて「労働法」と呼んでいます。
労働法は、人を雇用する会社が守るべき法律たちです。
労働法には、労働基準法のように明確な基準が設けられているものもあれば、パワハラ防止法のようにざっくりとした基準しかないものがあります。
また、「会社は〇〇しなければならない。守らなければ懲役か罰金だ!」というルールもあれば、「守れるよう努力してね」と国がお願いしているものもあります。
今回は、労働法の全体像をとらえるための3つの特徴をお伝えします。
直接労働者を守るものではない
労働法は、労働問題に関する法律のこと。でも労働法は、労働者を守ってくれるわけではありません
どうして? 会社と従業員の立場のアンバランスをなおすために労働法があるんですよね?
でも、ブラック企業で働いていても、残念ながら誰も助けてくれませんよね。労働法は、国が会社に対して「〇〇のルールを守りなさい」と決めているものなのです
そうですね・・・労働法は、直接労働者を守るのではなくて、会社にルールを守らせるものなんですね
国は、直接会社で働く人たちを守ってくれるわけではありません。
契約関係は対等が原則ですが、こと労働契約においては、会社で働く人は会社に比べて弱い立場にいます。
そのアンバランスを是正するために、国は会社に労働法を守らせることで、間接的に労働者を保護するという関係になっています。
労働法は、直接労働者を守るのではなく、会社にルールを守らせることで、間接的に労働者を守るものです
刑罰か企業名公表か
会社には、どうやってルールを守ってもらうのですか?
法律は最低ラインだから、それよりもっといい待遇の会社もたくさんありますよね。全然ルールを守らないような会社には「刑罰を与えるか企業名公表をする」と決まっています
刑罰とは厳しいんですね。会社名が公表されるのも、みんなが悪い印象を持つでしょうね
実際に刑罰を科されたり、企業名が公表される事例は、とてもまれです。この2つにいたるまでに、役所から助言とか指導、是正勧告がなされることが多いです
労働法には、会社が法律に違反したとき、刑罰が科されるものと企業名が公表されるものの2種類あります。
刑罰が科されるもの
労働基準法のように、明確な基準が設けられている法律では、法律に違反すると刑罰が科されます。
たとえば、会社が従業員を残業させるときには、一般的に「36(サブロク)協定」と呼ばれている労使協定を従業員と結んで、労働基準監督署に届け出なければならないというルールがあります。(労働基準法第36条)
36協定の締結・届出をせずに残業させた場合は、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑罰が科されます。
ここでいう「残業」とは、「週40時間・1日8時間超えた時間に働かせること」です。
「週40時間」とか「1日8時間」などと基準がはっきりしていれば、違反しているかどうかも明確なので、刑罰を設けられるのです。
企業名を公表されるもの
一方、パワハラ防止法(労働施策総合推進法(※))のように、ざっくりとた基準しかない法律は、「違反したら企業名を公表しますよ」と決められています。
たとえば、会社は、職場でパワハラ問題が起きないように対策を取らなければならないというルールがあります。(労働施策総合推進法第30条の2第1項)
でも、労働基準法とはちがって、「2回殴ったらパワハラ」とか「1回ならパワハラではない」と、明確な基準を設けることはできません。
このような法律は、「前科がつかないようにしなきゃ」と思わせるのではなく、「会社の評判が落ちないようにしなきゃ」と思わせて守らせようとします。
※正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
実際に、刑罰が科されたり企業名が公表される事例は非常にめずらしいです。
刑罰や企業名公表にいたるまでに、労働基準監督署や労働局などのお役所から「この部分が法違反だから、直しなさい」などと、助言や指導、是正勧告がなされます。
労働法は、刑罰や企業名公表によって会社にルールを守らせる。ただし、実際にこれらが行われることはめずらしいです
義務と努力義務
労働法って、たくさん種類がありますよね。全部守らないといけないなんて、会社を運営するのも大変なんですね
全部守れるのなら、守るに越したことはないけれど、現実には難しいですよね。守るべき法律にも、優先順位があります
優先順位なんて考えたことなかったです。何を基準に、優先順位をつければいいのでしょうか?
法律の条文の「文末」がひとつの基準になります。「会社は、〇〇しなければならない」もあれば、「〇〇するよう努めるものとする」もあります。「〇〇しなければならない」というルールの方が、守るべき優先度は高いです
法律を守る優先順位をつける
労働法には、労働基準法を筆頭に、労働安全衛生法、最低賃金法、労働契約法、労働施策総合推進法など・・・20個以上の法律が含まれます。
そして、一つひとつの法律の中に、何個もの条文があります。
会社は、法律を守るために存在しているわけではありません。
法律を守ることは大切ですが、より良い会社運営のためではなく、法律を守るために対応するのであれば、単なる作業になってしまいます。
そこで、優先順位をつける必要があります。
子育て世代が多いから、育児介護休業法の遵守に力を入れるのもありですし、健康経営を目指して、労働安全衛生法の遵守に力を入れるのもありだと思います。
条文の「文末」に着目する
一つ、提案としては、法律の条文の「文末」に着目することです。
文末が「〇〇しなければならない」になっているものもあれば、「〇〇するよう努めるものとする」になっているものもあります。
「義務」と「努力義務」の2種類あるのです。
労働基準法には、「努めるものとする」という条文はありません。
すべての条文が「〇〇しなければならない」となっています。
つまり、労働法の中で、労働基準法は、遵守すべき優先順位第1位です。
一方、労働安全衛生法の中には、受動喫煙の防止に関する条文があります。
会社は、受動喫煙を防止するために対策をするよう「努めるものとする」という条文です。(労働安全衛生法第68条の2)
この文末から、労働安全衛生法の中の、受動喫煙の防止に関する条文については、遵守すべき優先順位は低いと判断することができます。
労働法には、義務と努力義務があり、条文の文末で判断できます。義務を優先して遵守するとよいでしょう
労働法の3つの特徴まとめ
- 労働法は、直接労働者を守るものではない。国が会社に法律を守らせることで、間接的に労働者を保護している。
- 「法律に違反したら罰則を与えるか、企業名を公表しますよ」とすることで、会社に労働法を守らせようとする。
- 労働法にはたくさん種類がある。努力義務よりも義務を優先して守る。