社労士のシモデ(@sr_shmd)です。
なんのために、労働基準法を守るのでしょうか?
たしかに、労働基準法を守ることは大切です。
でも、会社は、法令遵守のために存在しているわけではありません。
つまり、労働基準法を守ることは当然。だけど、それが必ずしも「いい会社」とは限らないのです。
労働基準法の3つの特徴をおさえれば、その理由がわかります。
「どんな会社をつくりたいのか」「どんな会社で働きたいのか」を考えるきっかけにしてみてください!
ルールが明確!
労働基準法を守ることは大切なことですよね?
もちろんです。しかし、労働基準法を守っていればいい会社というわけではないと思います
なぜですか?それなら何のために法律はあるのでしょうか
労働基準法の特徴を知ると分かると思います。「ルールが明確」という特徴からみていきましょう
労働基準法のひとつ目の特徴は、「ルールが明確」だということです。
たとえば、労働基準法には、残業させるなら36(サブロク)協定を締結して労働基準監督署に届け出なければならないというルールがあります。
ここでいう「残業」とは、1週40時間、1日8時間超えた時間に働かせることです。
他には、入社後6ヶ月で出勤率8割超えていたら10日の年次有給休暇を与えなければならない、と決められています。
このように、「1週40時間、1日8時間」や「入社6ヶ月で出勤率8割」など、数値として明確な基準が設けられているのです。
明確な基準を設けることによって、会社がそれに違反しているかもはっきりとわかります。
そのため、「法違反には刑罰を科す」と決めることができるのです。
たとえば、「従業員と36協定を締結・届け出せずに残業させていたら、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金を科せられる」と決められています。
刑罰によって会社にルールを守らせるという、労働基準法などの労働法の特徴については、以下の記事でも解説しています。
労働基準法はルールが明確に定められているために、法違反に対する刑罰を設けることができます
最低基準になる
ルールがはっきりしていれば、守っているか守っていないかも判断しやすいですね
そうですね。ちなみに法違反で刑罰が科されるのはめずらしいけれど、悪質な会社は送検されることもありますよ
送検されることもあるんですね!? でも、会社と従業員の間で自由にルールを決めてもよいのではないですか?
お互いのためになるルールだったらそれもよいですね。ただ、労働基準法を上回るルールにしなければいけません
労働基準法のふたつ目の特徴は、「最低基準になる」ということです。
たとえば、会社と従業員が労働条件を決めるときに、「わたし、残業代いりません!」とか「うちには有給はないんだよ」と決めても、通用しません。
監督官が会社にやってきて調査されたら、「残業代を支払いなさい」とか「年次有給休暇を与えなさい」と命じられます。
監督官とは、労働基準法違反を取り締まっている労働基準監督署に所属している人たちです。会社にきて、是正指導や調査を行います。
いくら「うちでは基本給が高いんだ」とか「有給はないけれど休日が多いんだよ」と説明してもダメなのです。
労働基準法のルールは明確なので、単に「守っているか守っていないか」という観点からのみチェックされます。
「会社も従業員も納得しているからいい」という考え方ではないのです。
待遇をよくしたいのであれば、残業代を支払い、年次有給休暇を与えた上で、給与額や休日数を調整するという流れになります。
会社と従業員が自由にルールを決めるのであれば、労働基準法を上回るものにする必要があるのです。
つまり労働基準法は、会社の「最低基準になる」ということです。
労働基準法は、労働条件の最低基準になります。これにより、会社独自のルールを設けるなら、労働基準法を上回るものにしなければなりません
私たちを守ってくれるわけではない
「直しなさい」って命じられたことを、すぐに会社が直してくれなかったら、どうすればよいのでしょうか?
監督官にくり返し注意されているのに直さないと、送検されることもあります。しかし、働いている人はそれまで待っていられませんよね
会社で働く人は、会社より弱い立場にいるよね。労働基準法は、そのアンバランスをととのえるためのものじゃないの?
労働基準法は、会社と従業員の間を直接とりもつ法律じゃないのよ。労働基準法が、直接私たちを守ってくれるわけではないの・・・
労働基準法の三つ目の特徴は、「私たちを守ってくれるわけではない」ということです。
なぜなら、国が会社にルールを守らせることで、間接的に従業員を守るのが、労働基準法だからです。
「残業代を払わない」とか「休まず働け」という会社で働いていても、すぐに誰かがやってきて、自分を助けてくれるわけではないのです。
もちろん、労働基準監督署が会社に指導してくれることはありますが、それも、国から会社への指導というかたちになります。
たとえば、働いている会社が監督官に指導され、法違反を直したとしても、働いている人に謝ってくれるかは別問題です。
では、会社と働く人の間をとりもつ法律は何かというと、「民法」です。
従業員が「何がなんでも会社に文句を言いたい」ならば、裁判所で争います。
この時、もちろん労働基準法などの労働法が判断材料になります。
ただ、会社と従業員の間で不当なことがあったかどうかは、民法において判断されるということなのです。
国が会社にルールを守らせることによって間接的に従業員を守るのが、労働基準法。会社と従業員の間にあるのは民法です
「法令遵守=いい会社」ではないのはなぜ?
労働基準法の3つの特徴がよく分かりました! でもやはり、法律を守る会社はよい会社なのではないですか?
「ルールが明確」と「最低基準」がポイントだと思います。たとえば、毎月45時間くらい残業させるA社と5時間くらいのB社、どちらで働きたいでしょうか?
う〜ん、長時間働いて健康な生活をするのはむずかしいですよね。残業時間が長くないB社のほうがよいですかね
仮に、A社が36協定を締結・届け出しているけれど、B社はそれをしていなかったとしたらどうでしょう? A社ではなくて、B社は法違反をしていることになってしまいます
労働基準法は国と会社の間のルールとはいえ、少なくともこのルールを守っていれば、いい会社だと言える気がします。
ただ、労働基準法の世界では、それを守っているか守っていないかというモノサシしかありません。
なので、残業時間の長短にかかわらず、36協定を締結・届出していれば法違反ではないし、それをしていなければ法違反だ、という結果にしかならないのです。
でも、プライベートの時間も充実させてほしい会社、充実させたい人にとっては、法律を守っているかどうかは「いい会社」かどうかには関係ありません。
そういう会社や労働者にとっては、労働基準法を守っているか否かに関わらず、集中して働いて成果を出して、終業時間にはサクッと帰る環境が「いい会社」になるのです。
労働基準法は最低基準に過ぎません。それに、法律を守ることが目的になってはいけません。
法律を守ることは大切ですが、「どんな会社をつくりたいか」「どんな会社で働きたいか」ということの方が、もっと大切だと思うのです。
労働基準法は「最低基準」であり「守っているか守っていないか」という判断基準しかないため、法律を遵守していればいい会社だとは限りません
労働基準法の3つの特徴まとめ
- 労働基準法は、1.ルールが明確、2.最低基準になる、3.私たちを守ってくれるわけではないという3つの特徴がある。
- 残業時間がたった5時間だったとしても、36協定を締結・届け出していなければ、法違反になってしまう。
- 法律を守っているかどうかは「いい会社」かどうかには関係ない。「どんな会社を作りたいか」「どんな会社で働きたいか」の方が大切。