フレックスタイム制なので自由に働かせてもいいですか?
管理職は労働基準法で保護されないのですか?
執行役員は年次有給休暇を取らせないといけないのですか?
このような、「〇〇には労働基準法が適用されるのですか?」という質問を、ときどき受けます。
法律で決まっていることもあれば、個々の会社で決まっていることもあります。
今回は、労働基準法はだれに適用されるか、適用されない部分があるのならそれはどの部分かを整理してお伝えします。
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原則論
雇用され賃金を支払われる人
労働基準法には、どんな特徴があるのですか?
会社が労働基準法を守ることによって、そこで働く労働者が守られるという構図になります
労働者とはどんな人をいうのでしょうか?
労働基準法でいう「労働者」は「会社に雇用されて賃金を支払われる人」のことです
労働基準法は、労働問題に関して、国が会社に対して「〇〇しなさい」「〇〇はダメです」と決めている法律です。
会社が守らなければならないルールの対象が、「労働者」です。
労働者とは、「会社に雇用されて賃金を支払われる人」です。
正社員、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、雇用形態は問いません!
「労働基準法の保護の下にいるのは労働者」が原則です。
労働基準法が保護するのは、会社に雇用されて賃金を支払われる「労働者」で、雇用形態は問いません
フレックス・裁量労働
フレックスタイム制や裁量労働制で働く人も、労働基準法で守られます。この人たちも「会社に雇用されて賃金を支払われる人」です
フレックス? 裁量労働? どんな制度でしたっけ?
労働時間の規制が、ある程度ゆるやかになった制度のことです。その代わり、会社には、しっかりした労働時間管理が求められます
フレックスや裁量労働で働かせるときには、注意が必要ですね
フレックスタイム制や裁量労働制で働く人たちはどうでしょうか。
フレックスタイム制も裁量労働制も、労働基準法に定められた労働時間制度です。
なので当然、このような働き方の人たちにも労働基準法は適用されます。
「会社に雇用されて賃金を支払われる人」であることに変わりありません。
フレックスタイム制も裁量労働制も、労働時間の規制が少しゆるやかです。
フレックスタイム制は、働く人に「始業時間と終業時間の決定権をゆだねる」制度です。
裁量労働制は、フレックスタイム制よりもっと、働き方や業務を行う手段、時間配分などを任せる制度です。
労働時間の管理がゆるやかになるので、これらの制度を導入・継続するためには、会社はきっちりしたルールを守らなければなりません。
就業規則の整備や労使協定の締結・届出、労働基準監督署へ定期的に報告することなどが必要です。
もちろん、日々、労働時間の管理もしなくてはいけません。
フレックスタイム制や裁量労働制で働く人も「労働者」。会社は労働時間をきちんと管理する必要があります
派遣労働者
派遣で働く人も、「会社に雇用されて賃金を支払われる人」だから、もちろん、労働基準法で守られます
派遣される会社が変わったらどうなるのですか?
派遣で働く人は、普段働く「派遣先」ではなくて、雇用契約を結ぶ「派遣元」の会社において「労働者」だと考えます。お給料も、派遣元の会社から支払われます
派遣で働く人は「派遣元」の会社からみたときに、「会社に雇用されて賃金を支払われる人」になるんですね
派遣で働く人はどうでしょう。
派遣の方々も「会社に雇用されて賃金を支払われる人」なので、労働基準法で保護されるのは当たり前ですね。
ここでいう「会社」とは、基本的に「派遣元」の会社です。
派遣制度では、まず、派遣元の会社と派遣先の会社で「派遣契約」を結びます。
派遣を受け入れる期間やそれぞれの会社の責任者などを、会社間でざっくりと取り決めます。
そして、派遣で働く人が雇われるのは、「派遣元」の会社です。
派遣で働く人と派遣元の会社で、雇用契約を結びます。
ここで、細かい労働条件が決められます。
派遣で働く人は、派遣元の会社から見て「会社に雇用されて賃金を支払われる人」なのです。
派遣で働く人は、派遣元の会社から見て「労働者」。派遣元と派遣労働者が雇用契約を結びます
経営者・役員
経営者や役員は・・・残念ながら労働基準法では保護されません。
経営者や役員(取締役)は、会社に雇われる人ではありませんからね。
むしろ、労働基準法の保護が適切にいき届いているかどうかをチェックする側です。
「当たり前じゃないか」と思いますよね。
でも、裁判になることもあるんですよ。
労働基準法関係ではありませんが、役員クラスの人がセクハラをしたために会社から処分され、その処分を不服だと主張して会社と争った裁判例があります。
その人は「会社は、セクハラについてろくに研修や教育を行わなかった」と主張しました。
しかし、裁判所は、「役員なんだから、教育を受けさせてくれと主張するのではなく、それを実施する側だろう」と判断しました。
でも、経営者や役員だって同じ人間なんだから、誰かが守ってくれないと困りますよね。
そのため、事業関係の保険や傷害保険、従業員とトラブルになったときに備える保険(雇用慣行賠償責任保険)などの民間の保険に加入します。
経営者、役員、取締役は、法違反がないかチェックする側。法違反があれば、個人が責任を問われることもあります
執行役員
経営者や役員は、ルールが守られているかチェックする側ですよね。では執行役員はどうでしょうか?
執行役員はどんな人たちのことでしょうか?
執行役員は法律で決められたポジションではないので、会社ごとに異なります。委任契約を結んでいる委任型と、雇用契約を結んでいる雇用型があります
雇用型ということは、「会社に雇用されて賃金を支払われる人」になりますね!
「執行役員」はいかがでしょう。
これは、個々の会社の定めによります。
「執行役員」は、会社が任意に定めるポジションです。
つまり、役員や取締役とちがって、会社法に定義されているポジションではないのです。
会社と委任型で契約するか、雇用型で契約するかの2パターンあります。
雇用型で契約した場合には、執行役員は「会社に雇用されて賃金を支払われる人」になります。
当然、年次有給休暇も与えなければなりません。
執行役員には、委任型と雇用型の2パターンあります。雇用型なら労働基準法が適用されます
一部が適用されない人
労働基準法は「会社に雇用されて賃金を支払われる人」に適用されるという、原則論を確認しました。
次に、基本的には労働基準法が適用されるものの、一部分だけ適用されない人たちを紹介します。
管理監督者
管理監督者は上の立場の人たちですよね。労働者なのですか?
部下の労働時間を管理したり業務の指示をするから、えらい人のイメージがありますよね。でも、管理監督者も「会社に雇用されて賃金を支払われる人」に変わりはありません
確かにそうですね! でも、役職がない人と同じように守られるものなのなのでしょうか?
いいところに気がつきましたね! 管理監督者は、自分で労働時間の管理をすることが前提だから、労働基準法のうち、「労働時間、休憩、休日」のルールだけが、適用されません
まず、役職者、いわゆる「管理監督者」です。
労働基準法のルールのうち、「労働時間」「休憩」「休日」のルールが適用されません。
なぜかというと、管理監督者は自分で自分の労働時間の管理をするからです。
なので、週40時間以上働いたらその超えた部分に割増賃金が支払われるということがないのです。
しかし管理監督者も人間なので、深夜(22時〜翌朝5時)に働かせたら、会社はその時間に対して2割5分以上の割増賃金を支払いなさいというルールになっています。
また、休日と休暇は異なる概念なので、管理監督者にも年次有給休暇は与えられます(休日は元から労働する義務がない日、休暇は労働日の労働を会社が免除する日)。
ちなみに「管理監督者」には、実は明確な定義がありません。
「経営者と一体的な立場にある者」とされています。
「経営者寄りの人たち」ということですね。
管理監督者に当てはまるかどうかは、具体的には、次の3つの観点から総合的に判断されます。
- 経営上重要な職責を担っている
- 労働時間の管理を自分でしている
- 相応の高いお給料が支払われている
管理監督者には、「労働時間、休憩、休日」のルールが適用されない。管理監督者かどうかは3つの観点から判断されます
医者・ドライバー
お医者さんやトラックドライバーさんは、長時間労働が問題になりますよね。どうしてでしょうか?
医療も物流もなくてはならないものですよね。労働基準法では、残業の上限時間が決められているけれど、今はお医者さんやドライバーさんには適用されないんです
そうだったんですね・・・。いつになったら上限時間のルールが適用されるのですか?
2024年4月1日から適用されます。でも、お医者さんは、まだ具体的な上限時間数が決まっていません
長時間労働が問題視される、医者やトラックドライバーはどうでしょうか。
医者やトラックドライバーも、病院や運送会社に雇われて賃金を支払われる人ですから、労働基準法のルールが適用されるはずです。
ところが、フレックスタイム制や裁量労働制の人とはまた違ったかたちで、労働時間のルールがかなりゆるやかになっているのです。
原則、残業や休日に働かせられる時間数には、上限が決められています。
これが、つぎの表のとおり、2024年3月31日までは医者とドライバーには適用されません。
医者 | ドライバー | |
---|---|---|
2024年3月31日まで | 残業の上限時間数のルールが適用されない | 残業の上限時間数のルールが適用されない |
2024年4月1日から | まだ具体的な時間数が決まっていない | 残業の上限時間数のルールが適用される |
今は実質、医者とドライバーは何時間でも働かせられるということですね・・・。
しかも、医者は非常勤で働いている方も多いので、余計に過労が問題になるのです。
医者とトラックドライバーは、2024年3月31日までは、残業の上限時間数のルールが適用されません
公立学校の教員
私の友人に公立中学校の先生がいますが、とても長い時間働いているみたいなんです
大変そうですね・・・公立学校の先生には、労働基準法が適用されないのでしょうか?
いいえ、公立学校の先生や地方公務員の人たちにも、労働基準法は適用されます。ただ公立学校の先生には、「残業代の代わりに給与の月額4%を支払う」という特別なルールがあります
そういう特別なルールがあるから、長時間働かせたり、働いてしまうことが多いんですね
公立学校の教員は、地方公務員です。
地方公務員には、原則、労働基準法が適用されるのです。
では、なぜ、医者やドライバーと同じように長時間労働が問題視されるのでしょうか。
それは「特別法」のせいです。
給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)という特別法です。
つまり、特別法である「給特法」が労働基準法のルールを一部上書きします。
給特法の内容は、残業手当や休日勤務手当の代わりに、給与の月額4%を支給するというものです。
労働時間の規制は労働基準法の内容のままなのに、給与の支払い方が特別なので、現実には働かせすぎ・働かせすぎが発生しています。
地方公務員は、原則、労働基準法が適用される。ただし、公立学校の教員には、残業代の代わりに給与の月額4%が支払われます
適用されない人
会社の経営者、役員が労働基準法で保護されないのはいいとして、他に適用されない人はいるのでしょうか。
国家公務員
地方公務員と違って、国家公務員には、原則、労働基準法は適用されません。
代わりに「国家公務員法」が適用されます。
労働基準法や社会保険労務士法は、厚生労働省の管轄です。
厚生労働省で働く人の長時間労働も有名ですよね・・・。
厚生労働省の長時間労働の実態はよく分からないのですが、労働法から年金・介護・福祉まで、少々取り扱う幅が広すぎるのではないかと思います。
国家公務員には、原則、労働基準法ではなく国家公務員法が適用されます
個人事業主・業務委託
個人事業主や業務委託で働く人には、基本的には労働基準法が適用されません
でも、ときどき問題になっている気がしますが、どうしてでしょうか?
労働基準法は、形式より実態が重視されます。紙での契約上は「業務委託契約」だったとしても、実態として会社が細かく指示命令をしていれば「労働者だ」と判断されることがあります
労働者だと判断されたら、残業代を支払わなくてはならなくなりますね。それに、社会保険や雇用保険に加入させるかどうかも問題になってきますね
最後に、個人事業主や業務委託で働く人です。
会社から仕事を依頼されていたとしても、彼らと会社は「雇用契約」を結んでいるわけではありません。
個人事業主や業務委託で働く人は「会社に雇用されて賃金を支払われる人」にはならない、ということですね。
労働基準法で保護される「労働者」ではないのです。
ただ、雇用契約を結んでいなくても「実態は労働者だ」と判断されて、「残業代を支払え」などと問題になることがあります。
成果に対して報酬を支払うのではなく、会社が業務の進め方について細かく指示命令したり、逐一報告させているような場合ですね。
会社に雇用されていないので、健康保険や厚生年金保険は適用されません。民間保険に加入して上乗せする方もいらっしゃるそうです。
個人事業主や業務委託には、原則、労働基準法は適用されない。ただし、形式より実態が優先されるので、「労働者だ」と判断されることはあります
労働基準法の適用範囲と適用除外まとめ
労働基準法 | 具体例と特徴 |
---|---|
適用される | 会社に雇用されて賃金を支払われる人・・・原則 フレックスタイム制で働く人・・・始業・終業時刻を自分で決める 裁量労働制で働く人・・・業務のやり方も任せられている 派遣で働く人・・・派遣元と雇用契約を結んでいる 雇用型の執行役員・・・雇用契約を結んでいるかどうか |
一部適用されない | 管理監督者・・・労働時間、休憩、休日のルールが適用されない 医者・・・残業の上限時間数のルールが適用されない ドライバー・・・残業の上限時間数のルールが適用されない 公立学校の教員・・・残業代の代わりに給与の月額4%上乗せ |
適用されない | 経営者・・・法違反をチェックする側 役員・・・法違反をチェックする側 委任型の執行役員・・・委任契約を結んでいるかどうか 国家公務員・・・国家公務員法が適用される 個人事業主・・・「実態は労働者」かどうかが問題になる 業務委託で働く人・・・「実態は労働者」かどうかが問題になる |