就職先を探している人が仕事を決める要因の一つが、労働条件が良いことです。
「労働条件が良い」には、いろいろな意味が含まれると思います。
少なくとも、あいまいな部分をなくそうとしているとか、募集時に提示した条件と異なるならきちんと説明するかといったところで、応募者は会社の誠意を見ています。
今回は、募集時と採用時の労働条件の明示について紹介します。
仕事を決める理由・辞める理由
やっぱりお給料が高くないと応募者は来てくれないのでしょうか?
意外にも、お給料の高さは主な要因ではありません
何を理由に仕事を決める人が多いのでしょうか?
収入以外の労働条件の良さが第2位になっています
自分の会社で働いてくれている人が、いつ会社を辞めてしまうかは、誰にも分からないものです。
ただ、採用するときには、できるだけ長く働いて欲しいと思う方が多いのではないかと思います。
お給料が高くなければ応募者が来てくれないと考えていらっしゃるのなら、それは誤解です。
中途で転職した人(有期は含む、パートは除く)が、勤める会社を選んだ理由を見てみましょう。(厚生労働省「2019年雇用動向調査」より作成)
現在の勤め先を選んだ理由 | 男 | 女 | 計 |
---|---|---|---|
仕事の内容に興味があった | 501.4(22.6%) | 567.2(22.3%) | 1,068.5(22.4%) |
能力・個性・資格が生かせる | 338.7(15.3%) | 344.7(13.5%) | 683.4(14.4%) |
会社の将来性が期待できる | 116.6(5.3%) | 48.2(1.9%) | 164.7(3.5%) |
給料等収入が多い | 127.5(5.8%) | 149.8(5.9%) | 277.3(5.8%) |
労働時間、休日等の労働条件が良い | 259.9(11.7%) | 564.1(22.1%) | 824.0(17.3%) |
通勤が便利 | 177.3(8.0%) | 328.1(12.9%) | 505.4(10.6%) |
とにかく仕事に就きたかった | 264.9(12.0%) | 280.0(11.0%) | 544.9(11.4%) |
その他の理由(出向等を含む) | 426.8(19.3%) | 264.3(10.4%) | 691.1(14.5%) |
「給料等収入が多い」は、選択肢の中では下から2番目に低い数値となっています。
一方で、収入以外の「労働時間、休日等の労働条件の良さ」は、「仕事の内容に興味があった」に次いで2番目に高くなっています。
自社の仕事の魅力を語るのと同時に、労働条件を整えておき、それを伝えることが大切だということが分かります。
次に、中途で転職した人(有期は含む、パートは除く)が、前の会社を辞めた理由は、下表の通りです。
前の勤め先を辞めた理由 | 男 | 女 | 計 |
---|---|---|---|
仕事の内容に興味を持てなかった | 108.5(4.8%) | 138.6(5.5%) | 247.1(5.2%) |
能力・個性・資格を生かせなかった | 122.2(5.5%) | 81.0(3.2%) | 203.2(4.3%) |
職場の人間関係が好ましくなかった | 210.5(9.5%) | 382.5(15.1%) | 592.9(12.4%) |
会社の将来性が不安だった | 164.2(7.4%) | 104.9(4.1%) | 269.0(5.6%) |
給料等収入が少なかった | 196.6(8.8%) | 242.6(9.6%) | 439.2(9.2%) |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 253.4(11.4%) | 323.8(12.8%) | 577.2(12.1%) |
結婚 | 8.6(0.4%) | 62.3(2.5%) | 71.0(1.5%) |
出産・育児 | 9.4(0.4%) | 48.6(1.9%) | 58.0(1.2%) |
介護・看護 | 16.4(0.7%) | 37.0(1.5%) | 53.4(1.1%) |
定年・契約期間の満了 | 373.7(16.8%) | 277.9(10.9%) | 651.6(13.7%) |
会社都合 | 142.0(6.4%) | 150.2(5.9%) | 292.2(6.1%) |
その他の理由(出向等を含む) | 619.3(27.8%) | 689.7(27.2%) | 1,309.0(27.5%) |
「定年・契約期間の満了」を除くと、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は、「職場の人間関係が好ましくなかった」に次いで2番目に高くなっています。
応募者が採用の過程で想像している労働条件と、働いてから感じる労働条件のギャップを小さくすることは、少なくとも大切なことだと考えます。
募集前に労働時間や休日等の労働条件を整えておき、応募者にきちんと伝えることが大切です
募集時の労働条件の明示
収入以外の労働条件が魅力になるんですね
応募者はきっと、比較検討してよく見極めていますよね
募集するときには具体的に何を明示すればいいのでしょうか?
10個の労働条件を明示する必要があります
人を募集するときに、明示しなければならない労働条件は、以下の10個です。(職業安定法第5条の3、職業安定法施行規則第4条の2第3項)
- 業務の内容
- 労働契約の期間
- 試用期間の有無・長さ
- 就業場所
- 労働時間(始業・終業時刻、残業の有無、休憩時間、休日)
- 賃金の額
- 社会保険・労働保険の適用
- 雇用する者の氏名や会社名
- 雇用形態(派遣かどうか)
- 受動喫煙を防止するための措置に関する事項
これらは、原則、書面で明示する必要がありますが、応募者が希望した場合には電子メール等でも構いません。
実際に選考が進み、応募者との話し合いの中で、個々の労働条件が変わることもあるでしょう。
しかし、上記10個の労働条件は、実際に応募者との話し合いが進む前の人を募集する時点で、会社が想定している労働条件を明らかにしておかなければならないのです。
とくに「1.業務の内容」や「5.労働時間」は、応募者がよく見ている項目なので、実態とギャップがないようにすることが大切だと思います。
ギャップが大きければ、遅かれ早かれ人は辞めてしまうからです。
また、「10.受動喫煙を防止するための措置に関する事項」は、2020年4月1日に追加された項目です。
たとえば、「敷地内(屋内)禁煙」や、「屋内原則禁煙(喫煙ルーム有り)」などと記載することが考えられます。
なお、募集時の労働条件を労働条件締結前に変更した場合には、変更内容も明示するよう求められています。
たとえば、募集時には「基本給25万円〜30万円」としていた場合には、内定を出す前や入社前に「あなたの基本給は28万円です」と明示するようにしましょう。
募集時には、業務の内容や労働時間、賃金の額などの10項目を、原則書面で明示しなければなりません
採用時の労働条件の明示
募集の時にも労働条件をきちんと明示することが大事ですね
お給料の額を気にするだけでは足りなさそうですよね
採用を決定したらどうしたらいいのでしょうか?
採用時には改めて労働条件を明示しなければなりません
選考を終えて無事、労働契約を締結することが決まったら、以下の14個の労働条件を明示する必要があります。(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条)
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
上記のうち1〜6は、5の昇給に関する事項を除き、書面で提示しなければなりません。
募集時と同様、本人が希望した場合には、電子メール等での明示でもOKです。
そして、1〜6のうち赤字の部分は、募集時に明示すべき労働条件から追加されている項目です。
採用時に労働条件を明示する書面は、「労働契約書」「雇用契約書」「労働条件通知書」のいずれでも構いません。
労働条件通知書については、厚生労働省がひな型を公開していますので参考にしてみてください。
厚生労働省「労働条件通知書(一般労働者用;常用、有期雇用型)」(外部リンクが開きます)
採用時には、労働時間、賃金の決定・計算・支払い方法、退職に関する事項などの6項目を、原則書面で明示しなければなりません
労働条件の明示まとめ
- 勤める会社を決めるときも会社を辞めるときも、労働時間や休日等の労働条件を重視する人が多い
- 募集時には、業務の内容や労働時間、賃金の額などの10項目を、原則書面で明示する
- 採用時には、労働時間、賃金の決定・計算・支払い方法、退職に関する事項などの6項目を、原則書面で明示する