社会保険の手続きの中で、慣れるのに一番時間がかかったのが、妊娠・出産・育児の手続きです。
制度の趣旨を理解するのが難しいこと、電子ではなく紙でしか申請を受けつけていないこと、日付を管理して給与に反映させる必要があることなどが、複雑になる理由です。
今回は、妊娠・出産・育児に関して、休業中の社会保険制度・手続きについて紹介します。
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従業員が妊娠したら
従業員が妊娠したら、まずどうしたらいいでしょうか?
出産予定日を把握することが必要です
予定日の前から休む人が多いですよね
多いけど、休むのは絶対ではありません
出産(予定)日の前42日間が「産前休業」
従業員の妊娠が分かったら、まずは出産予定日を把握することが必要です。
従業員が希望した場合には、出産予定日を含めて42日(双子以上なら98日)前から「産前休業」として休むことができます。
たとえば、出産予定日が9月1日なら、出産予定日を含めて42日前の7月22日が産前休業の開始日です。
出産(予定)日までの産前休業は、従業員の「希望」によるものです。
そのため、出産日当日まで働かれる方もいらっしゃいます。
ただし多くの方は出産予定日の42日前から休まれるのではないでしょうか。
出産日の後56日間が「産後休業」
出産した日の翌日から56日間は、「産後休業」として休むことができます。
これは、従業員の希望によるものではなく、「強制休業」です。
会社は、産後休業中の従業員を働かせてはなりません。
ただし、出産した日の翌日から42日が経過して、従業員から「働かせて欲しい」という請求があり、主治医からもOKが出ているのであれば、働かせることができます。
たとえば、出産日が9月1日なら、9月2日から10月27日までの56日間が産後休業です。
従業員から希望があり、主治医もOKと言っているのであれば、10月14日から働かせることができます。
健康保険の「出産手当金」
休んでいる期間は業務に従事していないわけですから、会社の賃金支払い義務はありません。
産前産後休業中の生活を保障するのが、健康保険の「出産手当金」です。
休んでいてお給料を受け取れない期間、出産手当金として通常のお給料額の3分の2程度を受け取れます。
なお、出産手当金は非課税です。
参考:全国健康保険協会「出産に関する給付」(外部リンクが開きます)
産前産後期間中の社会保険料
産前産後期間中は、会社負担分・本人負担分ともに社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)が免除されます。
支払いは免除されるものの、将来年金額を計算するときには、社会保険料を納めた期間としてカウントされます。
保険料が免除されるのは、産前産後休業を開始する月から、終了予定日の翌日の属する月の前月(産前産後休業終了予定日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)までです。
たとえば、9月1日が出産予定日で7月22日から産前休業を取得し、予定通り9月1日に出産して10月27日まで産後休業を取得するのであれば、7月〜9月の3ヶ月分の社会保険料が免除されるということです。
参考:日本年金機構「従業員が産前産後休業を取得したときの手続き」(外部リンクが開きます)
妊娠・出産する従業員は、出産(予定)日前42日から後56日まで産前産後休業を取得できる。健康保険から出産手当金が支給され、社会保険料も免除されます
出産した後の育児休業
出産手当金で生活が保障されるんですね
社会保険料の免除とあわせて、忘れずに申請したいですね
産後休業のあとはどうすればいいでしょうか?
育児休業をとる人が多いです
育児休業を取得できる人
女性の育児休業の取得率は、82.2%と高い数値になっています。(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」)
また、取得期間は下表の通りです。半数以上の方が10ヶ月〜1年半休業するようです。
育児休業取得期間 | 割合(%) |
---|---|
5日未満 | 0.5 |
5日〜2週間未満 | 0.3 |
2週間〜1ヶ月未満 | 0.1 |
1ヶ月〜3ヶ月未満 | 2.8 |
3ヶ月〜6ヶ月未満 | 7.0 |
6ヶ月〜8ヶ月未満 | 8.8 |
8ヶ月〜10ヶ月未満 | 10.9 |
10ヶ月〜12ヶ月未満 | 31.3 |
12ヶ月〜18ヶ月未満 | 29.8 |
18ヶ月〜24ヶ月未満 | 4.8 |
24ヶ月〜36ヶ月未満 | 3.3 |
36ヶ月以上 | 0.5 |
育児休業は、取得したい日の1ヶ月前までに申し出てもらうことが必要です。
産前産後休業の申し出と一緒に伝える方が多いとは思いますが、遅くても出産日から20日経ったくらいには、育児休業を取得するか、取得するならいつまでかを確認した方がよいでしょう。
また、期間の定めのある契約(有期雇用契約)の方からの申し出は、以下の2つ両方に該当しなければ、法的には断ることが可能です。
- 引き続き雇用された期間が1年以上
- 子どもが1歳6ヶ月に達する日までに、雇用契約(雇用契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでない
逆に言えば、有期雇用契約で入社からまだ1年経っていない人や、子どもが1歳半になるまでに雇用契約が終了することが決まっている人以外からの育児休業の申し出には、応じなければなりません。
法的に認められている育児休業の期間は、原則子どもが1歳になるまでです。
子どもが1歳の時点、1歳半の時点で保育所等に入所できなければ、それぞれ1歳半、2歳になるまで延長できます。
雇用保険の「育児休業給付金」
産前産後休業と同様、育児休業期間中も、従業員は業務に従事していないため、会社に賃金支払い義務はありません。
育児休業中の生活を保障するのは、雇用保険の「育児休業給付金」です。
過去に1年間程度雇用保険を支払っている従業員は、育児休業給付金を申請できます。
休んでいてお給料を受け取れない期間、育児休業給付金として通常のお給料額の3分の2(67%)程度を受け取れます。
ただし、6ヶ月経過後は2分の1(50%)程度に下がります。
なお、出産手当金と同様、育児休業給付金も非課税です。
参考:厚生労働省パンフレット「育児休業給付の内容及び支給申請手続について」(外部リンクが開きます)
育児休業中の社会保険料
産前産後と同様、育児休業期間中も、会社負担分・本人負担分ともに社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)が免除されます。
また、将来年金額を計算するときには、社会保険料を納めた期間としてカウントされます。
保険料が免除されるのは、育児休業を開始する月から、終了予定日の翌日の属する月の前月(育児休業終了予定日が月の末日の場合は育児休業終了月)までです。
たとえば、9月1日が出産日で10月28日から翌年8月31日まで育児休業を取得するのであれば、10月〜翌年8月の11ヶ月分の社会保険料が免除されます。
参考:日本年金機構「従業員が育児休業を取得・延長したときの手続き」(外部リンクが開きます)
有期雇用契約の一部の人以外は、原則子どもが1歳になるまで育児休業を取得できる。雇用保険から育児休業給付金が支給され、社会保険料も免除されます
男性の育児休業
男性が育児休業を取得したいときはどうすればいいでしょうか?
育児休業は男女ともに取得できるから、会社に申請することが必要です
長期間休む人はまだ少ないのが現状ですよね
1ヶ月くらいの取得を希望する人が多いようです
育児休業の取得期間
男性の育児休業の取得率は15.8%と、年々上昇しているものの女性の取得率と比較してかなり低い数値になっています。(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)
取得期間は下表の通りです。7割以上の方の休業期間が、2週間未満のようです。(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」)
育児休業取得期間 | 割合(%) |
---|---|
5日未満 | 36.3 |
5日〜2週間未満 | 35.1 |
2週間〜1ヶ月未満 | 9.6 |
1ヶ月〜3ヶ月未満 | 11.9 |
3ヶ月〜6ヶ月未満 | 3.0 |
6ヶ月〜8ヶ月未満 | 0.9 |
8ヶ月〜10ヶ月未満 | 0.4 |
10ヶ月〜12ヶ月未満 | 0.9 |
12ヶ月〜18ヶ月未満 | 1.7 |
18ヶ月〜24ヶ月未満 | ー |
24ヶ月〜36ヶ月未満 | 0.1 |
36ヶ月以上 | ー |
これに対して、希望していた期間は、育児休業を取得した人の半数が8日〜1ヶ月以内、取得できなかった人の約35%が1ヶ月以上となっています。(厚生労働省委託事業「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」)
育児休業は、取得したい日の1ヶ月前までに申し出てもらうことが必要です。
配偶者の出産予定日から取得することができます。
出産日が予定日より早まった場合で、従業員から育児休業取得日の繰り上げの希望があれば、対応することが必要です。
繰り上げの申し出が出産日まで1週間を切っていれば、「◯日から取得してください」と開始日を指定できます。
育児休業は、子どもが1歳になるまでに1回取得するのが原則です。
ただし、男性の育児休業のパターンとして、配偶者の出産日から56日の間に1回、その後配偶者が職場復帰する前後に1回など、2回に分けて取得できます。
また、配偶者も育児休業を取得している場合には、最長子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を取得できるというパターンもあります。
参考:厚生労働省リーフレット「両親で育児休業を取得しましょう!」(外部リンクが開きます)
育児休業給付金と社会保険料
男性も、育児休業を取得した期間については、育児休業給付金が支給されますし、社会保険料も免除されます。
しかし、育児休業が短すぎると、どちらも適用されない可能性があります。
育児休業給付金は、1ヶ月のうちに11日以上働いてお給料を支払っていると、支給されない可能性があります。
育児休業を終了した日が月末以外の1ヶ月未満の取得だと、社会保険料が免除されません。
制度の大まかな内容は、育休取得希望者に説明できるとよいでしょう。
男性は、1ヶ月程度の育児休業取得を希望する人が多い。短期間だと育児休業給付金が受けられなかったり、社会保険料が免除されない可能性があります
まとめ
- 原則、出産(予定)日前42日〜後56日が産前産後休業。とくに出産日の翌日から56日間は働かせてはいけない。お給料を支払わない期間は、出産手当金が支給される。社会保険料は会社・本人負担分ともに免除される。
- 原則、子どもが1歳になるまで育児休業を取得できる。女性は産後休業の翌日、男性は配偶者の出産(予定)日が開始日になる。
- 育児休業期間中は、育児休業給付金が支給される。社会保険料は会社・本人負担分ともに免除される。ただし、期間が短すぎるとどちらも適用されない可能性がある。