社労士のシモデ(@sr_shmd)です。
突然ですが人事労務に関するクイズです。
- 教育訓練や研修制度はどのように運用するとよいでしょうか?
- 答えは次のうちどれでしょう?
(1) 入社前でもお給料を支払わないといけない
(2) 参加を強制できる
(3) 参加者を選別できる
(4) パートなどいわゆる「非正規社員」にも参加させなければならない
(5) 参加者が短期間で退職しても研修費用を全額返還させられない
正解は・・・ある意味で(1)〜(5)のすべてが正解ですが、金銭問題になることから「(1) 入社前でもお給料を支払わないといけない」と「(5) 参加者が短期間で退職しても研修費用を全額返還させられない」が重要です!
この記事では、教育訓練・研修制度の正しい運用方法について解説します。
この記事は次のような人にオススメです!
- 教育訓練・研修を担当している人事労務担当者
- 教育訓練・研修を受ける新入社員
- 社労士試験の受験生
労働時間には賃金支払い義務がある
教育訓練や研修を受けさせた時間に対して、お給料を支払わなければならないかどうかは、内定式や入社式などのイベントを行ったかどうかに関わりありません。
また、書面で労働契約書を交わしたかどうかも関係ありません。
入社予定の人を含む従業員に対し、会社が指揮命令をして教育訓練や研修を受けさせた時間には、お給料を支払わなければならないのです。
つまり、会社が従業員を指揮命令下に置いている時間には、賃金支払い義務が生じます。
賃金支払い義務のある「指揮命令下に置いている時間」を、一般的に「労働時間」といいます。
教育訓練や研修への参加は強制?
教育訓練や研修の時間が「労働時間」かどうかは、「参加を強制しているかどうか」が一つの基準になります。
「強制参加です」と明言していなくても、たとえば参加しなければ内定を取り消すとか、参加しなければ評価やお給料が下がるという対応をしていれば、それは参加を強制しているのと同じです。
したがって、教育訓練や研修の「(2) 参加を強制できる」のは確かですが、参加を強制して指揮命令下に置いた時間ならば「(1) 入社前でもお給料を支払わないといけない」のです。
参加者を選別するには合理的な理由が必要
従業員にどのような訓練や研修を受けさせ、どのように教育するかは、会社に委ねられています。
教育戦略は自由なのです。
会社は、目的を持って、コストをかけて教育訓練や研修を実施するわけですから、「(3) 参加者を選別する」こともできます。
いわゆる「管理職研修」がイメージしやすいかと思います。
ただし、参加者を選別するには合理的な理由が必要です。
当たり前ですが「嫌いだから」「(なんとなく)能力が低いと思っているから」といった理由で、業務上必要な教育訓練を受けさせないことはできません。
また、「パートタイマーだから」という理由のみで、業務上必要な教育訓練を受けさせないこともできません。
とくに、いわゆる「正社員」と同じ職務内容(業務の内容と責任の程度)を行っているパートタイマーや有期雇用の従業員には、職務の遂行に必要な研修として正社員に受けさせているものと同じ研修を実施しなければなりません。(パートタイム・有期雇用労働法第11条1項)
費用の返還請求は認められないケースが多い
ときどき「入社して◯ヶ月以内に退職したら研修費用を返還すること」といった取り決めをしているケースがありますが、これは違法と判断される可能性が高いです。
労働基準法には「賠償予定の禁止」というルールがあり、労働契約に付随して金銭を返還する約束を取り付けることはできないからです。
業務上必要な研修に関しては返還請求が認められないと考えてよいと思います。
返還請求が認められる可能性があるのは、教育訓練や研修の内容が「業務に関連がなく従業員が個人的に利益を享受するもの」であるときです。
その場合でも、費用の返還について事前に取り決めをしておくことが重要です。
教育訓練・研修制度の正しい運用方法まとめ
- 教育訓練や研修制度はどのように運用するとよいでしょうか?
- 会社の指揮命令下に置き、参加を強制して訓練や研修を受けさせた時間に対しては、賃金支払い義務が生じます。参加者を選別することはできますが、合理的な理由が必要です。また、業務上必要な訓練・研修の費用を返還させることは困難です。