社会保険の手続きの中で、慣れるのに一番時間がかかったのが、妊娠・出産・育児の手続きです。
当たり前ですが、予定通りいかないイベントですし、突発的なことが起きたり、休業中の従業員から取得すべき情報が多かったり、いろいろなパターンがあるからです。
今回は、妊娠・出産・育児に関して、職場復帰後の社会保険制度・手続きを紹介します。
育児中に使える社会保険制度
産後休業や育児休業を終えたら、復帰の準備ですね
従業員とのコミュニケーションが大切です
働きながら育児をするのに使える制度は何があるのでしょうか?
労働時間を多少は柔軟にできるような制度があります
育児休業を取得した方のうち、多くの人が職場復帰するようです。
育児休業を取得して復帰予定だった方が、復帰したか退職したかの割合は、下表の通りです。(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」)
復職者(%) | 退職者(%) | |
---|---|---|
女性 | 89.5 | 10.5 |
男性 | 95.0 | 5.0 |
まず、3歳に満たない子どもを育てる従業員が使える制度が、以下の2つです。
- 所定外労働の免除
- 短時間勤務制度(原則6時間)
1年生になるまでの子どもを育てる従業員が使える制度は、以下の3つです。
- 子どもを看護するための休暇
- 時間外労働の制限(1ヶ月24時間、1年150時間以下)
- 深夜(22時〜翌5時)業の免除
所定外労働の免除
3歳に満たない子どもを育てる従業員から請求があった場合には、所定労働時間を超えて働かせてはいけません。
従業員には、1ヶ月以上1年以内の間で、期間を設定してもらいましょう。請求回数に制限はありません。
労使協定を締結した場合には、入社1年未満、あるいは1週間の所定労働日数が2日以下の従業員を対象外にすることができます。
短時間勤務制度(原則6時間)
3歳に満たない子どもを育てる従業員に対して、1日の所定労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度を設けなくてはいけません。
労使協定を締結した場合には、入社1年未満、1週間の所定労働日数が2日以下、あるいは業務上短時間勤務が困難な業務に従事する(※)従業員を対象外にすることができます。
※短時間勤務が困難な従業員を短時間勤務制度の対象外とした場合には、以下4つのいずれかの措置を講じなければなりません。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の繰り上げ、繰り下げ(時差出勤の制度)
- 事業所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
子どもを看護するための休暇
1年生になるまでの子どもを育てる従業員から、子どもの病気やケガの看護、健康診断や予防接種などで病院に行くための休暇の請求があった場合には、を取得させなければなりません。
取得可能な日数は、1年に5日(子どもが2人以上の場合には10日)までです。
取得単位は、1時間です。原則、始業時刻か終業時刻に接した時間で取得してもらいます。
労使協定を締結した場合には、1日未満の単位で休暇を取得させることが困難な業務に従事する従業員を対象外にすることができます。
時間外労働の制限(1ヶ月24時間、1年150時間以下)
1年生になるまでの子どもを育てる従業員から請求があった場合には、1ヶ月24時間、1年間150時間を超えて法定時間外労働をさせてはいけません。
従業員には、1ヶ月以上1年以内の間で、期間を設定してもらいましょう。請求回数に制限はありません。
日雇い、入社1年未満、あるいは1週間の所定労働日数が2日以下の従業員からの請求に対しては、法的には承諾する必要はありません。
深夜(22時〜翌5時)業の免除
1年生になるまでの子どもを育てる従業員から請求があった場合には、22時〜翌5時までの深夜に働かせてはいけません。
従業員には、1ヶ月以上6ヶ月以内の間で、期間を設定してもらいましょう。請求回数に制限はありません。
日雇い、入社1年未満、1週間の所定労働日数が2日以下、あるいは所定労働時間の全部が深夜にある従業員からの請求に対しては、法的には承諾する必要はありません。
また、その従業員に、以下に該当するような、子どもの面倒を見ることができる16歳以上の同居の家族がいる場合にも、法的には請求に応じなくても構いません。
- 深夜に就労していない(深夜の就労日数が1ヶ月につき3日以下の者を含む)
- 負傷や疾病、心身の障害により保育が困難でない
- 産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間以内でない
上記5つの制度は、法的に会社に義務づけられているものであって、就業規則に規定がある・ないに関わりません。
所定労働時間を短くしたり、休暇を取得させたりした時間は、業務に従事していないため、賃金支払い義務はありません。
ちなみに、所定外労働の免除(制限)と短時間勤務制度の導入率は、6割以上の回答となっています。(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」)
3歳未満の子を育てる従業員が使える制度は「所定労働時間の免除」と「短時間勤務制度」。1年生になるまでの子を育てる従業員が使える制度は「子どもを看護するための休暇」「時間外労働の制限(1ヶ月24時間、1年150時間未満)」「深夜(22時〜翌5時)業の免除」
月額変更と養育特例
育児中の従業員が使える制度は5つあるんですね
従業員への周知も大事ですね
働らく時間が短くなるのはいいけどお給料は減りますね
社会保険料については特例があります
育児休業を終えて短時間勤務になった、3歳未満の子どもを育てる従業員は、たいてい、お給料額が下がると思います。
控除される社会保険料が従前のままだと、手取りが少なくなるため、この状態を補正するのが「育児休業等終了時の月額変更」です。
通常の月額変更は、2等級以上の変動がないと要件に該当しないのですが、「育児休業等終了時の月額変更」は1等級でも下がれば要件に該当することになります。
(参考:日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」(外部リンクが開きます))
控除される社会保険料が少なくなるのはいいものの、年金額にも影響してくるため、この状態を補正するのが「養育特例」です。
年金額は、従前の社会保険料額を算定の基礎とすることができる手続きです。
つまり、短時間勤務中、実際に控除される社会保険料は「育児休業等終了時の月額変更」の手続きにより少なくなったとしても、「養育特例」の手続きをすることで年金額には影響がないようにするということです。
(参考:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」(外部リンクが開きます))
育児休業から復帰後、短時間勤務になる場合には「育児休業等終了時の月額変更」と「養育特例」の手続きを行うことができます
不利益取り扱いは禁止!
短時間勤務には社会保険料の特例があるんですね
忘れずに手続きしたいですね
みんなちゃんと制度を使えているのでしょうか?
不利益取り扱いを受けたと感じている人も多いみたいです
育児休業含め、「1.育児中に使える社会保険制度」の5つの制度を利用したり、利用したいと申し出たことを理由にした不利益な取り扱いをすることは、禁止されています。(育児介護休業法)
不利益な取り扱いとは、例えば以下のものを指します。
- 解雇する
- 有期契約の従業員に対して、契約の更新をしない
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、その回数を引き下げる
- 退職を強要する
- 労働契約内容の変更を強要する
- 自宅待機を命ずる
- 従業員が希望する期間を超えて、本人の意に反して所定外労働の制限(免除)、時間外労働の制限、深夜業の制限(免除)または所定労働時間の短縮措置等を適用する
- 降格させる
- 減給する
- 賞与等において不利益な算定をする
- 人事考課において不利益な評価をする
- 不利益な配置の変更を行う
- 就業環境を害する
実際に不利益取り扱いを受けたと回答している方のうち、約半数の人が「権利を主張しづらくなるような発言をされた」と回答しています。(JILPT「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査」より作成)
妊娠等を理由とする不利益取り扱いの態様 | %(n=984、複数回答) |
---|---|
解雇 | 16.6 |
雇い止め | 18.0 |
契約更新回数の引き下げ | 6.0 |
労働契約内容の変更の強要 | 14.4 |
自宅待機命令 | 5.0 |
降格 | 7.6 |
減給 | 12.7 |
賞与等における不利益な算定 | 18.4 |
人事考課における不利益な算定 | 14.6 |
不利益な配置変更 | 14.0 |
就業環境が害された | 12.6 |
上のいずれかを示唆するような発言をされた | 21.1 |
「休むなんて迷惑だ」「辞めたら?」など 権利を主張しづらくなるような発言をされた | 47.0 |
ただ、裁判になるほど揉めるような事例はやはり、契約の解消(解雇や雇い止め)や降格、減給など、金銭が絡む事案が多いと思います。
育児休業等の制度を利用したり、利用したいと申し出たことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています
育児休業から復帰したときの手続きまとめ
- 育児と仕事を両立するための主な制度は、所定外労働の免除、短時間勤務制度、子の看護休暇、時間外労働の制限、深夜業の免除の5つ。
- 育児休業から復帰して短時間勤務をしている場合、育児休業等終了時の月額変更と養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の手続きができる。
- 育児に関連する制度を利用したり、利用したいと申し出たことを理由に、解雇等の不利益な取り扱いをすることは禁止されている。