何らかの思いを持って会社をつくり人を採用しても、創業年数や会社の規模によって、必ず人のトラブルは生じます。
よくあるご相談の2つが、「休職」と「懲戒」です。
従業員が体調不良などにより働けなくなったときに検討するのが「休職」で、不正行為などを行った従業員を処分する際に検討するのが「懲戒」です。
1社当たりのご相談件数は少なくても、会社を運営しているとどちらかの問題には必ず直面するという類のものだと思います。
今回は、休職制度の原則についてご紹介します。
解雇を知ると休職が分かる!
「◯日まで休職を要する」っていう診断書を従業員が持ってくることがありますよね
対応の仕方がわからないと慌ててしまいますよね
そもそも休職制度ってどういうものなのですか?
従業員が私傷病で働けない期間、解雇を一定程度猶予する制度です
休職は「解雇猶予措置」
会社と従業員は、「労働契約」を締結しているという関係性です。
従業員が「働きます」と約束し、会社が従業員の働きに対してお給料を支払うことを約束したら、労働契約は成立していることになります。(民法第623条)
従業員が、私生活でのケガや病気で「働けません」と言ってきたら、「働きます」と約束していた前提が崩れてしまうので、労働契約は成り立たなくなります。
したがって、従業員が「働けません」と言えば、本来、労働契約は解消されるのです。
しかしながら、日本の雇用社会は「新卒一括採用」「長期雇用」が特徴ですから、一時的に働けない従業員に対しても、会社は取り得る手段を尽くして雇用を維持することが求められます。
とくに、働けない理由が私傷病ならば、サボりや怠惰が理由ではありませんから、会社は私傷病が治るまでの一定期間、労働契約の解消(解雇)を猶予することが求められます。
このような「解雇猶予措置」として生まれたのが、休職制度です。
休職制度の設置は法的な義務ではない
従業員が「働けない」と言ったら、本来は労働契約の解消なのですから、休職制度を設けること自体が、労働基準法などで会社に義務付けられているわけではありません。
しかし、一定期間働けないと言っている従業員をいきなり解雇し、退職者に裁判を起こされた場合には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではないので解雇は無効」と判断される可能性が高いと思います。
従業員が私傷病にかかったときには、会社は可能な範囲で取り得る手段を尽くす必要があるのです。
そのため、長期雇用を前提とした労働契約の期間の定めのない、いわゆる「正社員」の就業規則では、休職制度が設けられていることが多いです。
ただし、そもそも休職制度は法的な義務ではないことからも、長期雇用を前提としないパートタイマーやアルバイト等の私傷病に対しては、一度労働契約を解消しても法的には問題ないと考えます。
一定期間働けないと言っている従業員(正社員)に対しての解雇であっても、「解雇がむずかしい」のはどういうことか、解雇の「客観的に合理的な理由」とは何かについては、以下の記事でご説明しています。
従業員が私傷病で働けないなら本来は労働契約が成り立たなくなるが、会社は雇用の維持が求められるので、休職制度を適用するケースが多いです
休職のルールを明確にしておこう
「◯日まで休職を要する」っていう診断書を従業員が持ってきたら、休職制度を適用することが一般的なんですね
とくに長期雇用が前提な正社員に対してはそうですね
休職制度を運用するときは何に気をつけたらいいでしょうか?
ルールを明確にしておくことが大切です
休職は会社が命じるもの
従業員が「働けます」と約束することが労働契約の前提ですから、従業員は勝手に休むことはできないことになります。
従業員が「◯月◯日から◯月◯日まで休職を要する」といった主治医からの診断書を提出してきたとしても、労働契約上は、当然に休めるというわけではありません。
診断書の内容を基に、会社が従業員に対して休職を命じるという立て付けとなります。
私傷病によって労働契約で約束した労務提供ができないのなら、会社は不完全な労務提供を受け取れないので、休職を命じるということです。
会社は主治医と労働契約を結んでいるわけではないですからね。
就業規則に記載しておく
休職制度を設けることは、法的に会社に義務付けられてはいません。
しかし、設けるならば就業規則に記載しておく必要があります。
就業規則で決めておくルールは、たとえば以下のようなことが挙げられます。
- 従業員は、原則、診断書を会社に提出すること
- 休職期間はどのくらいか
- 休職中、お給料を支払うかどうか
- 社会保険料等の本人負担分の取り扱い
- 休職中の会社との連絡について
- 復職できないときの退職について
休職中のお給料の支払いは、義務ではありません。
健康保険に加入している従業員ならば、医師の証明がある等の要件に該当すると「傷病手当金」が支給されます。
申請書類を書く際には、過去のお給料額を記載する箇所がありますので、会社が協力してあげるとよいでしょう。
従業員の私傷病や不正行為などの問題行動に対応するときに力を発揮するのが就業規則なので、従業員が10名以上になったら速やかに作成できるよう準備しておくとよいでしょう。
診断書を基に、就業規則で決めていたルールにしたがって、会社が従業員に対して休職を命じましょう
復職時はより一層注意しよう!
休職のルールは就業規則に記載しておくといいんですね
あらかじめ決めておけばいざというときに慌てないですね
どのくらい休ませて復職させるかはどうやって決めればいいでしょうか?
現職に復帰できるかが基準になります
現職復帰が原則!
休職に入るときには、基本的に主治医の診断書に基づいて休職期間を決定して休ませます。
復職できるかどうかは、原則、「もともと働いていた職場でもともと働いていた内容の仕事ができるか」が基準となります。
そのため、たとえば従業員が復職を希望して持ってきた診断書に「時短なら復職可」や「相応の配慮を要する」といった記載があった場合、この基準を満たしていないので、すぐに復職させることを決定するのは得策ではないと思います。
本人の体調、主治医の意見、会社の規模、本人との関係性、周囲の従業員への影響なども考えて、復職を決定するべきだと考えます。
産業医は、法的には従業員数が50名以上で選任する必要がありますが、規模を大きくしていく予定があるならば、30名程度になったら産業医を契約するのもありだと思います。
頼りになる産業医の先生なら、復職の面談もしてくれるので、主治医の意見と産業医の意見を合わせて復職を検討することができます。
復職のルールも就業規則に記載しておく
休職のルールについて就業規則に記載したら、復職のルールについても記載しておきます。
たとえば、以下のようなルールを決めておきます。
- 復職を希望する従業員は、診断書を会社に提出すること
- 従業員の同意の上で、主治医と面談することがあること
- 追加で検診や産業医との面談を命じることがあること
- 復職基準の具体例
仮に従業員本人が強い復職の希望を示しても、いざ復職させたらまた欠勤を繰り返すようになってしまったら、会社にとっても従業員の健康にとってもよくありません。
欠勤を繰り返すような状態ならば、再度休職を命じることも検討しなければならないでしょう。
復職は現職復帰が原則。復職の判断に迷ったら産業医に面談してもらうのも一つの方法。休職と同様、復職のルールも就業規則に明記しておきましょう
労務トラブル対応のための休職制度まとめ
- 私傷病により働けなくなった従業員に対しては、休職させて解雇を一定期間猶予することが求められる
- 主治医の診断書や就業規則で決めておいたルールにしたがって休職を命じる
- 復職の判断基準は「現職復帰できるか」。産業医の意見も聞いて慎重に判断するとよい